研究概要 |
核内受容体は、低分子リガンドを受容することで直接DNAに結合し転写を制御する経路(ゲノミック経路)と、直接DNAに結合することなく転写を制御できる経路(ノンゲノミック経路)がある。本研究の目的は、核内受容体が関与する疾患におけるノンゲノミック経路の同定と分子基盤解明、及び低分子リガンドによる制御を可能にし創薬応用へとつなげることである。第一年度では、乳癌細胞におけるプロゲステロン受容体(PR)の1)ChIP-seq解析、及び2)分子基盤解明を計画していた。 1)本研究では他の転写因子に結合する核内受容体を標的としているため、通常のChIPよりも強力な抗体が必要となることが判明したが、利用可能なPR抗体では十分な効率が得ることができなかった。そこで第一年度では、ChIP-seq解析系の立ち上げを最優先目標とし、解析対象を、抗体をはじめとした研究材料が揃っていた核内受容体エストロゲン受容体(ER)とKlf転写因子群に変更した。これまでにKIf転写因子群(Klf2,4,5)のChIP-seqから10-30Mと十分なリードを取得できた。しかし、有効ピーク数、認識配列ともにKlfファミリーは高スコアにヒットしなかった。これらの原因はChIPサンプル自体に起因していたため、ChIP効率とDNA断片化を最適化し、現在再シーケンスを実施中である。 2)分子基盤の解析対象も、核内受容体ビタミンD受容体(VDR)に変更した。我々は、VDRが、活性型ビタミンDである1,25(OH)_2D_3依存的に、転写因子SmadのDNA結合を阻害し腎繊維症を緩和することを見いだしていた。しかし、1,25(OH)_2D_3の副作用として高カルシウム血漿を誘発した。一方、1,25(OH)_2D_3_VDR複合体の立体構造に基づいたIn silico解析で設計した新規VDRリガンドDLAMsは、腎繊維症モデルマウスにおいて主作用は維持しつつも副作用は誘発しないことを確認できたため論文としてまとめ、現在リバイズ中である。さらに別のVDRリガンドTTYNsを用いたX線結晶構造解析から、VDRゲノミック制御の新規構造基盤を明らかとし、既に論文が受理された。
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