本年度は、URu2Si2のレーザー超高分解能光電子分光におけるデータの解析と超短パルスレーザーの特性を生かした実験である「時間分解光電子分光法」を中心に研究を遂行した。特に時間分解光電子分光については、装置の整備に加え、光誘起金属絶縁体相転移を示すVO2という物質の時間分解光電子測定を行った。以下に得られた成果を示す。 1.URu2Si2の隠れた秩序:電子構造における微細構造 URu2Si2の超高分解能レーザー光電子分光測定では、光電子スペクトルにバンドの分裂構造が見られていた。新たに光電子強度の偏光依存性解析を行い、分裂構造が独立の行列要素で記述される2本のバンドでは説明できず、単一の電子状態であることが示唆された。これらは隠れた秩序の正体を明らかにする上で、新しい実験的な手がかりとなる事が期待される。 2.VO2の時間分解光電子分光 光誘起の金属絶縁体転移を起こす物質として知られるVO2において、上述の高次高調波レーザーを用いた時間分解光電子分光実験を行った。時刻ゼロ以降において、フェルミ準位上におけるスペクトルウェイトの増加が観測され、それに対応した変化として結合エネルギー1eV近傍の強度減少が見られた。光電子スペクトルの過渡変化におけるポンプ光パワー依存性を調べてみると、しきい値の存在が示唆された。 フェルミ準位における光電子強度の時間変化では、時間分解能170fsよりも速い立ち上がりが観測され、その後3psにかけて線形的な増加が観測された。これらの実験データは、典型的なモット絶縁体で見られるものとは大きく異なり、VO2の絶縁体相が特殊な状態である事を示唆している。
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