現在、ケアの倫理は、看護・福祉・教育といった「ヒューマン・サービス」と呼ばれる分野を中心に広く応用されている。それにもかかわらず、ケアの倫理の理論的洗練、すなわちディシプリンの明確化はなされないままである。具体的には、理論枠組みが不明確であり、それゆえ、他の理論との違いも曖昧なまま論じられている。このうち理論としての曖昧さを解消し、「理論としての一般化」を図るために、第一年度は次の二つのアプローチから研究を行った。第一に、ケアの倫理の主要な論者であるノディングスの理論的変遷から、ケア理論の理論枠組みの明確化を図った。これにより、ケアの倫理の倫理的規準の明確化がなされ、ケア理論の基本構造の一つが示された。それとともに、ケアリングという倫理的行為を導くものである「理想」の内実を検討した。この「理想」とは、ケアの倫理の鍵概念であるにもかかわらず、記述が試みられてこなかった概念である。第二に、これまでほとんど論じられてこなかったノディングス以外のケア理論家の主張を整理することで、ケアの概念史的研究を行った。具体的には、フェミニストでもあるラディックやヘルド、また、社会理論や政治理論としてケア理論を捉え直しているクレメントやトロントといった論者である。これら論者たちについては、これまでの日本におけるケアに関する研究においてほとんど取り上げられてこなかった。しかし、ケア理論を一般化するためには、ケアの倫理の歴史的な整理は不可欠であり、その意味で意義深い研究である。以上の研究が、ケア理論の一般化を行う基礎となる。
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