研究課題/領域番号 |
12J00667
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
安井 絢子 京都大学, 文学研究科, 特別研究員(DC1)
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キーワード | ケアの倫理 / 徳倫理学 / ノディングス / ハーストハウス |
研究概要 |
ケアの倫理は他の倫理理論との関係が不明瞭であり、倫理学的位置づけがほとんどなされていない。そのため、ケアの倫理は他の倫理理論との関係を明確化しなければならない。そこで、比較的共通点の多い徳倫理学との関係を中心にケアの倫理を倫理学のなかに位置づけるための検討を行った。 具体的には、ケアの倫理と共通点が多くその一種と誤解されもする徳倫理との関係性を検討した。多くのケア論者はケアをする際に、徳が重要な役割を果たしていることを述べている。しかし、ケアの倫理は徳倫理学とは区別して論じられてきた。そこでまず、ケア理論家が徳倫理学をいかに扱っているか、ケアの倫理と徳倫理学との異同はいかなるものかを考察した。次に、SloteやR. Hursthouseの徳倫理学とケアの倫理との比較を通じて、両者の倫理的基礎が異なるという点で一貫していることを明らかにした。それに加えて、従来、ケアの倫理をめぐる重要な問題点のひとつとされる「遠い者や隔たりのある者へのケアの問題」の解決法に新たなアプローチを見出した。これまで、ケアという一対一の対面関係におけるアプローチでは、遠くの人や未来世代にたいする倫理的配慮を行うことができず、そのため、ケアの倫理は広汎な社会に適用することができないという指摘が多くなされてきた。これにたいして、ケア論者たちは通常、正義の倫理と何らかの関係を結ぶことで応答を試みてきた。しかしながら、ケアの倫理と正義の倫理とは、倫理的基礎を異にする理論であるために、両者をそれほど容易に関係づけることはできない。そこで、正義の倫理とケアの倫理とを直接結びつけるのではなく、ケアの倫理と共通点の多い徳倫理学とケアの倫理とを結びつけ、徳倫理学から正義の視点に到達するという道筋をとるアプローチを提案した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初、ケアの倫理を規範倫理理論として構想する際に、正義の倫理との関係を手掛かりに行おうと考えていたが、ケアの倫理と親近性の高い徳倫理との関係から検討するという多少の変更を行ったから。
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今後の研究の推進方策 |
ケアの倫理を「学」として確立するために、正義の倫理と呼ばれるカント主義倫理学や功利主義の共通点を整理する必要がある。それとともに、両者の相違点を検討することで、ケアの倫理の規範理論としての位置づけを明らかにする。 また、上記の理論的な研究とは別に、実践理論としてのケアの倫理の可能性も探究する。従来指摘されていた看護学での応用を参考に、ケアの倫理を障害学に適用することを試みる。
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