研究概要 |
葉緑体形質転換は花粉による遺伝子拡散がないという点で従来の遺伝子組み換えより優れた技術であるが、葉緑体は2重膜に包まれており、葉緑体内で発現したRNAやタンパク質は核遺伝子に影響を及ぼすことができないという問題点がある。本研究では、葉緑体形質転換による核遺伝子の発現制御技術の開発を目的として、葉緑体膜を通過するRNA分子・ウイロイドの利用を検討した。 葉緑体形質転換用ベクターpPRV112A'にEggplant latent viroid(ELVd)のcDNA配列を導入し、形質転換用コンストラクトを作成した。コンストラクトをタバコ(Nicotiana tabacum)の葉にパーティクルガンを用いて導入し、ELVd導入タバコを得た。ELVd由来のsmall RNAを検出することによって、葉緑体内から細胞質へELVd分子が移行しているかを検証した。結果、ELVdの分解によるsmall RNAは検出されず、葉緑体から細胞質へのRNAの移行は認められなかった。 併せて、ELVdの宿主範囲の調査を行い、ELVdの移行能や増殖能や機能性が発揮される植物種を明らかにした。これまでELVdの感染はナス(S.melongena)でしか報告されていない。ナスおよびその近縁種にin vitro転写で作成したELVd分子を接種した。接種処理から1カ月後の植物体の葉からRNAを抽出し、ノーザンプロットによりELVdの感染の有無を調査した。結果、S.melongena以外にも、S.aethibpicum,S.macrocarpon,S.torvum,S.mammosum,でELVdの感染が認められた。これらのことから、Solanum属のSubgenus Leptostemonumの植物はELVdの宿主になると考えられた。
|