研究概要 |
腹足類殻形態の定量化とその適応的意義の定量的評価を行った.腹足類殻形態は多様な"巻き"パタンを示すが,その一般的な定量化法は成長管モデル(Okamoto,1988)により与えられている。しかし,実際の標本から直接モデルパラメータを測定することが難しいため,実証研究には殆ど用いられてこなかった.そこで,1)CTによりえられる3Dデータが利用できる場合にB-スプライン曲線で成長軌道を近似し,それとは独立に螺管成長率を推定し,パラメータの変化を推定する方法,2)デジタルカメラによる2Dデータのみが利用できる場合に測定の測定可能なモデルを介してパラメータを推定する方法の2つを考案した,本方法は今後,研究目的[1]及び[2]に取り組む上で有用なツールになる.特に,研究目的[2]で,ミクロなの成長の素過程とマクロな形態とを結びつける上で必須である. 研究目的[1]については,腹足類の殻の正射影面積を殻が"邪魔になる度合い"の指標とすることで,殻高と殻口の傾きの関係が示すパタンをある程度説明しうること理論的解析及び標本の測定により明らかにした.さらに殻のバランスが陸生腹足類の殻高と殻口の傾きの分布パタンを強く制約していることを示唆する結果を得た.これは従来指摘されていた,殻高の高い殻は大きな殻口の傾きを持たないという観察事実をも説明する.現在はCTデータからの表面データの抽出,流体力学計算用ライブラリの導入といった流体力学的解析の準備を進めている.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の予定通り,本年度は形態の適応性の評価について重点的に取り組んだ.特に,陸生種と水生種に殻口の傾きについて異なる傾向が見られることを明らかにした.現在論文を準備中である.また,今後必要になってくる形態の定量化法について一つの目処がたった.現在は実際のCTデータに適用することで,問題点や改善点を明らかにする作業を行なっている.本作業が終了次第,論文投稿の準備を行う予定である.
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今後の研究の推進方策 |
今後はこれまでに開発した腹足類殻形態の"巻き"パタン定量化法の実際の標本への利用を行う.特に,分子レベルでの違いが形態的差異にどの程度反映されるのかを評価したい,最終的に論文の執筆を行い研究成果の公開を進める.また,腹足類の殻の発生を連続体力学的な観点からモデリングし,形態の多様性についての解析を進める.特に,外套膜の成長勾配が"巻き"パタン及び殻の外形にどういった影響を与えるかを検証する.また,外套膜の物性をどのように仮定するか,また,どのように仮定すると形態がロバストにつくられるかを理論的に解析する.本研究は東京大学の遠藤教授らのグループとともに取り組む予定である.
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