ニホンウナギの稚魚漁獲量は大きな経年変動を伴いながら,長期的には減少傾向にある.外洋域における海洋環境の経年変動により,卵や仔魚の生残率が変動することで稚魚漁獲量が変動していることが示唆されている.しかしながら,稚魚漁獲量の長期的減少傾向については,その原因が未だ解明されていない.そこで本研究では変態期仔魚や稚魚を対象に,それらの生残に係る黒潮および沿岸流域の海洋環境変動を明らかにすることを目的としている.仔稚魚は遊泳力が乏しいため,海流に依存して,輸送拡散される.当該年度は,沿岸流域での海流の把握につとめ,対象海域としている丹後海と有明海の海洋物理データを時間的,空間的に密に取得し,新たな知見を得た.丹後海に流入する由良川は河口域表層における塩分濃度を10程度引き下げる効果があり,河川流量が大きくなる冬季から春季を中心に河口表層では沖向きの北東流の流れが卓越する.一方,水深10m以深の中底層では逆向きの由良川に向かう南西流が卓越する傾向が顕著に認められた.これは河川水の流入に伴って,エスチュアリー循環が強化されることを示したものであり,ニホンウナギやスズキが沿岸域に回遊する際に中層に分布することで、このエスチュアリー循環をうまく利用して選択的輸送回遊を行う可能性があることを示唆している.これらの仔魚は物理的なプロセスで発生する流れを利用し,分布水深を変化させることで,摂餌場である由良川河口域へ輸送されやすくしているものと示唆された.この知見は初めて指摘されたものであり,潮汐が弱く潮汐選択的輸送回遊が期待できない日本海に面した海域での新たな回遊メカニズムを提示したものである.
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