研究概要 |
本年は,^<14>C年代測定による高精度年代決定を行った.申請書に書いたA,B,Dの3本のコア試料と,A,B,の近傍で表層部補完のために採取したショートコアHDP08-1dとGC-2Jの2本において,全有機炭素^<14>C年代測定を行った.また,得られた年代値を幅広く議論するためにδ^<13>C分析も行った.本報告書では,Bの結果について詳しく述べる. 全有機炭素^<14>C年代については,230~246cmと298~378cmにおいて逆転が見られた.これにより年代軸には『若返る2点が正しい』か『それ以外の古い9点が正しい』かの二つの可能性が生じた.まず,コアの継ぎ目などに若い試料がコンタミしたことを考えたが,この2点は1本3mのコアの中心部にあるためにその可能性は薄い.次にold carbonの影響で年代が古く見積もられていることが考えられるが,先行研究などによってもこれが妥当であることは明らかであるため,この影響が深さごとに異なることが年代の逆転を引き起こしたことを考えた.場所の異なる2本のショートコアの表層とHolocene/Pleistoceneの境界部の全有機炭素^<14>C年代が,期待される年代よりも約3400~3800年(HDP08-1d)と約1300~1800年(GC-2J)古く見積もられること,またその他先行研究ではより古い試料において約6200年(HDP04)古く見積もられることから,コア採取地点・試料の年代によりold carbonの影響が異なることが明らかとなり,つまり年代軸としては若返る2点が適当であることがわかった.またこのことはδ^<13>Cの結果などから,氷期に湖水面が低下することによって湖内に流入し堆積する物質の供給源が変化したことが原因と特定した. 今年度の結果の意義は,全有機炭素^<14>C年代から年代以外の情報もくみ取り,環境変動の解釈に結びつけた点である.従来,年代はその値を用いてその他の現象を議論するものであるが,本研究においては,その年代プロファイルこそが環境変動を反映していることを特定しため,今後は全有機炭素^<14>C年代が,年代そのものとしてだけではなく環境変動の解釈にも利用されることが期待される.
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今後の研究の推進方策 |
。 本年度の結果により,時代ごと場所ごとに堆積物供給源が異なっていることが明らかとなった.このローカルではあるが、非常に明確な堆積環境の変化の数々がどの全世界的なイベントに対応しているかを考察していくことで,モンゴル・フブスグル湖をはじめとする東ユーラシア地域の環境変動のメカニズムを読み解くという当初の研究計画を今後も遂行していく.そのためにも,当初の予定通り堆積物供給源の特定に向けTLCI分析を行っていくと共に,ルミネッセンス年代測定の高精度化を進めることも行っていく.また,本研究で用いる4つのコア試料以外にも本研究の目的を達成するに適切であると考える試料に関しては積極的に得て,より詳細かつ幅広い年代の環境変動の議論によって本研究の完遂を目指す.
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