研究課題/領域番号 |
12J00835
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
大井 修吾 京都大学, 理学研究科, 特別研究員(PD)
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キーワード | 斜方輝石 / 合成実験 / 高温その場観察 |
研究概要 |
申請者の研究は、天然試料における斜方輝石の相関係の解明を目的とし、そのために① 低温型―高温型斜方輝石の安定領域の決定を行い、② 冷却時に形成する高温型斜方輝石を含む鉱物組織を解明し、③ 天然火成岩中における高温型斜方輝石の観察を行う予定である。1年目に引き続き2年目も① 低温型―高温型斜方輝石の安定領域の決定を中心に研究を進めた。 低温型―高温型斜方輝石の相転移温度を決定するため、つくばの高エネルギー加速器研究機構のフォトンファクトリー内のBL-4B2にある放射光を用いた多連装粉末X線回折装置にて実験を行った。様々な化学組成を持つ天然・合成斜方輝石を出発物質として実駿を行った結果、低温型斜方輝石-高温型斜方輝石間の相転移は1120±50℃の範囲であることが分かった。このことから、高温型斜方輝石は大気圧条件において約1120℃以上で安定領域を持ち、天然火成岩に晶出する斜方輝石は低温型斜方輝石のみであり、天然の高温型斜方輝石は高温低圧の地球外の試料中にあることがわかった。 また、Huebner (1980)の示したMg2Si206-Fe2Si206系の相図の斜方輝石・単斜輝石の安定領域を確認するため、H2-CO2混合ガスによりp (02)をバッファーした縦型炉を用いて実験を行った結果、1300℃の合成実験の回収試料からは単斜輝石じか観察できなかった。また、En67Fs37の化学組成を持つ斜方輝石を1200℃で保持したところ、単斜輝石への相転移が観察できた。この結果はHuebner (1980)のMg2Si206-Fe2Si206系の相図が誤っており、Mg2Si206-Fe2Si206系の相図を考えなおす必要性を示している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は低温型―高温型斜方輝石の相転移を観察するため、高角度分解能なX線回折装置と雰囲気コントロール可能な高温炉を立ち上げ、データを収集して成果を上げた。 その結果、高温型斜方輝石は大気圧条件では1100℃以上の高温でのみ安定領域を持ち、天然火成岩中には産出しないことが分かった。また合成実験では、Mg2Si206-Fe2Si206系の誤りを指摘する研究結果が得られた。 相平衡図の再構築が必要となり慎重に進めたため、天然火成岩の観察などに手を付けていないが、造岩鉱物学分野において最も基礎となるMg2Si206-Fe2Si206系のが誤りを指摘する成果が得られており、おおむね順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
今年度の研究で高温型斜方輝石は天然火成岩中には存在しないことが分かったので、3年目の研究は当初予定していた高温型斜方輝石が形成する鉱物組織の再現実験や天然火成岩の観察について研究を行うのではなく、低温型―高温型斜方輝石の安定領域の決定をより詳細に行う予定である。 特にMg2Si206-Fe2Si206系の相図は造岩鉱物学分野において最も基礎的な相図の一つであり、本来は疑うことなく正しいものであると思われている。幸いMg2Si206-Fe2Si206系の相図の誤りは1000℃以上の領域であり火成岩を扱う上では問題なかったが、今後地球外の物質を考える際にはこの相図は参考にすることができないのが現状である。今後はMgとFeのM1-M2元素分配も含めて考えていきMg2Si206-Fe2Si206系の相図を完成させる予定である。また、温度履歴とMgとFeのM1-M2元素分配の関係から、天然斜方輝石の熱履歴を解明する手法を考える予定である。
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