申請者は「高温型斜方輝石の安定領域の確立と天然火成岩中での探索」を研究課題として、①低温型―高温型斜方輝石の安定領域の決定、②冷却時に形成する高温型斜方輝石を含む鉱物組織を解明し、③天然火成岩中における高温型斜方輝石の観察を行う予定であった。 ①低温型―高温型斜方輝石の安定領域を決定するために、1・2年目はMg2Si2O6-Fe2Si2O6系における高温その場粉末X線回折、およびゲルを出発とする合成実験を行った。その結果、低温型―高温型斜方輝石の相転移温度は1000-1200℃であり、高温型斜方輝石は1200-1300℃以上でしか安定領域を持たない可能性が示唆された。また過去の相平衡図とは異なり、広範囲に及んでピジョン輝石が安定である可能性が示唆された。1・2年目の結果から、天然火成岩中には高温型斜方輝石は出現しないことが分かった。 そのため、3年目の研究は当初予定していた②、③の研究を行うのではなく、①低温型―高温型斜方輝石の安定領域の決定をより詳細に行うため、i) Mg2Si2O6-CaMgSi2O6-CaFeSi2O6-Fe2Si2O6系におけるゲルを出発とする合成実験とii) 斜方輝石を出発とする単斜輝石への相転移実験を行った。i) の結果から、高温型斜方輝石の安定領域を含むMg2Si2O6-CaMgSi2O6-CaFeSi2O6-Fe2Si2O6系の相平衡図及び等温断面図を作成し、Caを含む系における高温型斜方輝石の安定領域を示した。また、ii)の結果、一部の試料において斜方輝石からピジョン輝石間への相転移を観察することができ、過去の相平衡図が誤っていることを示した。しかし相転移を観察できていない試料との差を見出すことができておらず、その理由については今後の課題として残る結果となった。
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