研究課題/領域番号 |
12J00844
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
松本 匡広 大阪大学, 大学院・工学研究科, 特別研究員(DC2)
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キーワード | ドラッグデリバリーシステム / ナノ粒子 / 表面制御 / PEGブラシ |
研究概要 |
医療分野への応用を目指した高分子ナノ粒子の開発では、粒子表面とタンパク質との相互作用の制御が重要である。タンパク質の材料表面への非特異的な吸着は、機能的に設計された表面の構造を損なわせ、機能・性能の低下の原因となる。そのため、高いタンパク質吸着抑制能を有する生分解性ナノ粒子の開発が求められている。高密度ポリエチレングリコール(PEG)ブラシ層の構築は、タンパク質の非特異的な吸着を抑制するための最も効果的な手法の一つである。最近、高分子量と低分子量の二種類のPEG鎖から構成されるヘテロPEGブラシ構造が、高いタンパク質吸着抑制能を発現することから注目されている。しかしこの手法は、金基板とチオール基の相互作用を利用しており、生分解性基板、特にドラッグキャリアへの応用を目指した生分解性粒子表面への適用は困難であった。申請者はこれまで、チオール-ジスルフィドの酸化還元反応に基づき、脱離-再結合が可能な高密度PEGブラシを有する生分解性ナノ粒子に関する研究を展開させてきた。今年度は、高いタンパク質吸着抑制能を有する生分解性ナノ粒子の開発を目的とし、ペプチドナノスフェア表面のPEGブラシ構造の設計によりその達成を試みた。PEGブラシ構造の制御は、元のPEGブラシ(分子量2000)を部分的に脱離させ、次に、より高分子量のPEG(分子量5000-20000)を結合させることで達成した。還元反応および、酸化反応の条件を制御することにより、残存PEGの密度を0%から60%まで、結合するPEGの密度は10%から50%まで制御可能であった。得られた種々のブラシ構造を有するナノ粒子において、タンパク質の非特異的吸着を検討したところ、PEG2k60%/PEG5k40%というヘテロブラシ構造において最も高い吸着抑制能が得られた。さらに本ヘテロブラシナノ粒子は、血清中で3週間以上安定に分散した。ヘテロPEGブラシ層の構築は生分解性ナノ粒子に高いタンパク質吸着抑制能と分散安定性を付与する有用な手法であると期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
従来の生分解性ナノ粒子では、粒子の表面機能を損なわせるタンパク質の非特異的吸着が問題であった。 そこで私は、粒子表面へのタンパク質の非特異的吸着を抑制するために、表面PEGブラシ構造の制御に着目した。 その結果、極めて高い吸着抑制能を有する生分解性ナノ粒子を得ることができ、生体内を模倣した条件で長期間、その表面機能を保持することを示した。本結果はすでに投稿中である。
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今後の研究の推進方策 |
得られたナノ粒子の表面構造が、細胞とナノ粒子間の相互作用に対して与える影響を明らかにするために、細胞毒性や取込挙動、細胞の産出するサイトカイン等について評価を行う。表面構造と細胞応答の相関が得られることで、生分解性ナノ粒子をドラッグキャリアとして、或いは免疫賦活能を有するナノ粒子アジュバントとして用いる際の最適な表面設計に関する知見が得られるものと期待される。
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