低副作用で転移がんにも有効ながん治療法として、患者自身の免疫を活性化し、がん細胞を攻撃させるペプチドワクチン療法が注目されている。ワクチンは、体内の樹状細胞に取り込まれることで免疫を誘導する。しかし、ペプチドワクチンを注射などにより投与するだけでは、樹状細胞以外の細胞にも取り込まれてしまう。その結果、免疫は誘導されず、免疫寛容などの副作用を引き起こすことが問題となっている。この問題の解決のため、ペプチドを樹状細胞選択的に送達する手法の確立が求められている。現在、生分解性高分子から成る微粒子状キャリアにペプチドを内包することで、樹状細胞選択性を向上させる手法が主流である。しかし、本手法においても、ペプチドの粒子からの漏出は避けられず、副作用の危険性は排除できない。申請者はこれまで、アミノ酸N-カルボキシ無水物(NCA)重合法により、親水性のポリエチレングリコール(PEG)をコロナ、疎水性のポリフェニルアラニン(PPhe)をコアとするコア―コロナ型の生分解性ナノ粒子が得られることを報告してきた。さらに、PEGとPPheの間にジスルフィド結合を導入することで、還元反応によるPEG鎖の解離と酸化反応による結合により、ナノ粒子の表面構造を自在に制御可能であった。本年度は、得られたナノ粒子の表面構造が樹状細胞に与える影響について明らかにすることを目的とし実験を行った。その結果、特に、解離可能なPEG鎖を有するナノ粒子が、細胞内環境に応答してPEG鎖が解離し、疎水性表面が露出することで樹状細胞を活性化することを見出した。さらにこの知見から、本ナノ粒子をペプチドワクチンキャリアとして展開した。本ナノ粒子を用いることで、ナノ粒子を取り込んだ樹状細胞のみを選択的に活性化し、ペプチドを送達することができることが示唆された。本設計は、安全で効果の高いペプチドワクチンシステムの確立に寄与すると期待される。
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