単層カーボンナノチューブへの分子内包方法装置を設計および作製し、パラニトロアニリン分子の単層カーボンナノチューブへの内包を試みた。単層カーボンナノチューブへパラニトロアニリン分子が内包されたことを透過型電子顕微鏡およびラマン分光測定により観察した。透過型電子顕微鏡測定では、得られた白黒の像のコントラストから試料の構造決定を行った。ラマン分光法による測定では、試料が単層カーボンナノチューブとパラニトロアニリンの二分子からなることを確認した。以上、これら二つの測定結果からパラニトロアニリン分子が単層カーボンナノチューブへ内包されたと判断した。 単層カーボンナノチューブは炭素原子のみから成る円筒状の物質であり、その直径は約1nmである。一方、パラニトロアニリン分子は直径の半分以下の大きさである。単層カーボンナノチューブへ内包する分子の大きさがその直径に較べて十分小さい時、分子は単層カーボンナノチューブへ内包されやすいと同時に、一度内包された分子が単層カーボンナノチューブ外部へ出て行きやすいことも意味する。そのような小さな分子を単層カーボンナノチューブ内部のみに留めておくことができたということは、これまで単層カーボンナノチューブ内部に留めておきにくいと考えられていた分子も内包することができる可能性を示唆し、応用研究の幅が大きく広がると考える。また、単層カーボンナノチューブ内部の完全な真空状態を利用し、分子同士の純粋な相互作用の観察を通じて基礎研究にも大きく貢献することができると考える。
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