研究概要 |
イソマルトオリゴ糖(α-1,6-グルコシド結合)は,腸内細菌叢を改善するプレバイオティクス機能や食品の物性改善効果を持つため,食品・医薬品などに広く利用される.その工業生産は,糖質酵素であるα-グルコシダーゼの糖転移作用で行われている.本研究のターゲット酵素である糖質加水分解酵素デキストラングルコシダーゼ(DexB)は,α-1,6グルコシド結合特異的に主に加水分解を行うが,糖転移反応も行う酵素である。本研究では,有用糖合成の高効率化や新規糖合成のための知見を蓄積するために,モデル酵素としてDexBを用い糖転移能を決定する構造要因解明を進めている.DexBによく似た全体構造を持ち反応特異性も同じであるが,DexBよりも高い糖転移能を持つイソマルトオリゴサッカライド6-α-グルコシルトランスフェラーゼ(I6GT)が存在する.酵素の活性ポケット入り口を構成するβ→αループ6においてDexBとI6GT間で配向の違いが見られたため,DexBのループ6を16GT型に置換することで糖転移率の上昇を目指した.変異体を作製し,イオン交換HPLC法によりDexB野性体および変異体の2糖から5糖を基質としたときの生成物の遊離初速度を測定した.その結果,DexB野生体と変異体間で糖転移率に違いは見られなかったものの,鎖長特異性において変化が見られた.すなわち,野生体は3糖を最も良く分解したが,変異体は4糖を最も良く分解した.また触媒効率を表すパラメーターが,野生体では3糖において最も高い値を示したが,変異体では測定した2-5糖でほとんど同じ値となった。当該年度の研究結果より,着目した構造要因がDexBの鎖長特異性を決定する構造の一つであることが初めて明らかとなった.
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