熱間圧延プロセスにおいて、被加工材表面には高温酸化により酸化物皮膜(スケール)が生成する。スケールは表面欠陥を誘発する。加えて、ロールなどの工具と材料の間に位置し、摩擦や熱移動にも大きな影響を与える。報告者らは昨年度までに低炭素鋼、ケイ素含有鋼、無酸素銅、ステンレス鋼についてスケールの厚さを制御した熱間圧延を行い、スケールの変形や圧延特性に与える影響を実験的に調査し報告している。その結果、スケールの変形はおおむね(1)スケールの延性が高く地鉄とともに均一に変形する(2)延性が低く破砕されたスケールが地鉄に押し込まれる(3)スケールにある程度の延性がありロールバイト内で不均一変形を生じながら圧延されるの3種類に分類できることを見出した。 しかしながら、スケールの巨視的な挙動は明らかになりつつあるものの、微視的な変形は明らかになっていない。また、スケールの不均一変形の発生条件が不明である。スケールの変形は、スケールの初期組織、圧延時の温度の2つの影響を受けていると考えられる。そこで本年度はスケールの熱間圧延での微視的な変形を観察するとともに、スケールの温度が圧延中の挙動に与える影響を理論的に考察した。 (1)熱間圧延前後のスケールに対して電子後方散乱解析(EBSP)を用いてスケールの微視的変形を調査した。圧延前のスケールの組織は、酸化時間によらず厚さ方向にほぼ1個の貫通粒であった。圧延を行うと厚さ15μm以下のスケールは体積一定条件に従い、地鉄と同じ圧下率で均一に変形した。厚さ35μm程度の厚いスケールは分断され、その部分での地鉄の隆起が観察された。 (2)スケールが厚い場合のスケール割れの発生条件を、スケールの圧延時の温度分布に着目して考察した。スケールの延性脆性遷移温度を1120Kとすることで計算された、熱間圧延におけるスケールの均一変形可能厚さの計算値は、実験結果とよく一致した。
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