研究課題/領域番号 |
12J00960
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
黛 友明 大阪大学, 文学研究科, 特別研究員(DC1)
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キーワード | 民俗学 / 門付け芸 / 民俗芸能研究 / 放浪芸 / 生活史 / 近代化 / 漂泊/定住 |
研究概要 |
本研究は、門付け芸という移動する宗教芸能者の実践を、近代以降の生活の変容という視点から民俗学的に検討することで、まれびと、異人などと概念的に語られてきた対象を、具体的な場や経験から再考することを目的としている。本年度は、史料収集と伊勢大神楽の現地調査を行った。史料収集は、滋賀県の市町村史における伊勢大神楽の報告を中心的に調査した。今まで知られていた事例に加えて、民謡・民俗芸能・昔話など地域社会へ多様な影響を与えていることが確認できた。今後は、地域を広げて、他の類似芸能についても収集も行いたい。これらの事例を、地域社会と芸能者の交渉によって初めて発生する「民俗」,として位置づけていくための史料批判の方法や枠組みを構築することがこれからの課題である。伊勢大神楽の現地調査は、大阪府、滋賀県、香川県、岡山県、三重県、東京都(公演)などで実施し、伊勢大神楽講社の各組の現状と歴史の基礎的な理解を固めた。特に現在は森本忠太夫組のみが行っている瀬戸内海の島を訪れる「島めぐり」に「同行し、船を使った移動の様子などを記録したことが重要な成果であった。また、すでに廃業した伊藤森蔵組の親方と子方にインタビューし、他の組には見られない芸などについて聞き取りを行なった。それらの成果をもとに、加藤菊太夫組の事例に即して、実践的な側面を「観客」という観点から捉え直した研究の一部を論文としてまとめた。今後は、芸能の実践を現在性を持った行為として理解することを強調してきた研究史を踏まえながらも、再度、生活史という視点から考察することを目的として、芸能の上演と観察や聞き取りによって明らかになる生活史との関連性に着目し、調査・研究を継続したい。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
フィールドワークは予定通りに行うことが出来た。門付け芸の具体的なあり方を理解する基礎を固めることができた。また、伊勢大神楽講社の属する複数の組へ調査を行なったため、その実践が固定的なものではなく、流動的なものであることを把握することが出来た。加えて、史料収集も進み、これまでほとんどないと言われてきた市町村史の門付け芸の記述が、少ないながらも検討に値する史料であることがわかった。しかし、フィールドワークと史料収集はどちらも、それを整理分析する方法が不十分で確立しておらず、手探りな部分が多い。
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今後の研究の推進方策 |
本年度は、昨年度の調査を継続しつつ、小沢昭一の「放浪芸」を研究史の中で検討する。『日本の放浪芸』では、民俗芸能研究を代表とする、いわゆる「研究」では視野に入ってこなかった「稼ぐ芸」=「放浪芸」を対象としていることが明確に示され、多くの門付け芸もその文脈で言及されている。小沢自身の関心・調査・記述を明らかにしつつ、生活史という方法との近似性を指摘し、これまでの民俗学史とは異なった視点から私自身の研究を位置づけることを目指す。この作業は、歴史研究に偏った門付け芸の理解を積極的に民俗学や生活史のアプローチをどのように展開することができるかという問題意識につながっており、フィールドワークや史料分析を同一の地平で検討する方法の構築と関わる。芸能と生活が混然一体となった担い手の経験や、それを迎え入れる地域社会の「民俗」への検討を踏まえ、門付け芸から近現代を捉えかえす考察を行いたい。
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