当該年度は、獅子舞と放下芸を行いながら西日本各地を回る伊勢大神楽とその芸能者集団の明治期の実態を解明することを目指した。伊勢大神楽は、世襲制の太夫家を中心に組を結成して活動する。伊勢大神楽講社(三重県桑名市太夫)に所属する太夫家は、江戸時代から現在に至るまでの資料を所蔵している。その資料調査をし、これまで注目されることが少なかった明治期の資料を中心に整理・検討を行った。この作業を通じて明らかになったのは、明治初期の禁令以降、伊勢神宮をはじめとする近世的な権威との関係が断たれ、「技芸」「遊芸」として鑑札を得て活動することになり、各地の郡役所に活動許可を得るための届等を提出していたことである。今後はこの事実を、伊勢神宮の近代との関係、近年、研究が進んでいる民間宗教者との事例と比較し、「民俗」「民俗芸能」と呼ばれる対象がどのように変質したか、という問題意識のなかで捉えなおすことを課題としたい。 また、フィールドワークの成果に基づきながら、The Australia-Japan Graduate Conference(オーストラリア国立大学)で「Professionalism and the Folk Performing art: Focusing on Isedaikagura」というプレゼンテーションを行った。これまでの研究が伊勢大神楽の専門集団によって担われているという特徴を十分に捉えきれていなかったと指摘して、Professionalismという側面から検討した。今後、海外の日本研究の文脈との接合も視野に入れて自身の研究を位置づけることも試みたい。
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