研究概要 |
TRPV1の発現レベルは顎関節症や片頭痛、神経障害性疼痛など様々な慢性疼痛疾患と深く関連するとされるが(Meents JE et al.Trends Mol Med 2010;16:152-9.)、発現上昇したTRPV1の機能は不明な点が多い。この点を解決すべく、ラット三叉神経節由来であるTRPV1の全長cDNAをPC12に形質転換し、細胞膜上に様々なレベルでTRPV1を安定発現する培養神経細胞株を樹立した。PC12は三叉神経節ニューロンと同様、神経堤由来でニューロンへの分化が可能で内因性にもTRPV1を発現する細胞株である。細胞膜においてTRPV1発現レベルが高い細胞株はカプサイシンによるagonist刺激を加えると、大量の活性酸素(ROS)が産生され、細胞死が誘導される。このROS産生は細胞膜透過性ROSスカベンジャーTEMPOL(4-Hydroxy-2,2,6,6-tetramethy1 piperidinoxy1)によって抑制されるほか、MAP kinaseであるc-Jun N-terminal kinase(JNK)のリン酸化が関与することを確認した。 in vivoにおいては、ラットの足底部にカプサイシンを局注することで生じる局所的な痛覚過敏がROSスカベンジャーにより抑制されるため(Schwartz et a1.Pain.2008;138:514-24)、ROSが痛覚の慢性化に関与することは以前より知られている。このROSの発生機序は、in vitroにおいて申請者らが解析した前述のメカニズムにより説明されるが、ROSによる組織損傷のマーカー8-hydroxy-2'-deoxyguanosine(8-OHdG)と、ROS除去能をもった各種分解酵素の局在について申請者はラットの三叉神経節において解析した。三叉神経節に存在するサテライトグリアと細胞体では、ROSによる組織損傷への脆弱性が異なり、各種のROS分解酵素の局在もまた異なることから、一連の痛覚受容機構で生じるROSの吸収過程には神経細胞体とサテライトグリアの機能的な連携が不可欠と考えられる。本研究は近年、慢性疼痛の病態との関連が大きなトピックとして報告されるサテライトグリアの機能に新たな知見を加えるものである(Katagiri et al.Mol Pain.2012;8:23)
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