マラリアSFTSウイルスなどの感染症は節足動物(ベクター)によってヒトへと媒介される。この病原体媒介や足動物には極めて興味深い生命現象が存在する。それは、病原性微生物を体内に有するにも拘わらず、自身は病気にならないという点である。私は、小形条虫と甲虫コクヌストモドキを病原体と宿主とする感染系を用いて、研究を遂行している。今年度は、昨年度構築したRNAiスクリーニング系により、新規遺伝子のスクリーニングと再現性の確認実験を進めた。その結果、昆虫の自然免疫系のうちToll経路とJAK/STAT経路が小形条虫の感染量の制御に関わっており、IMD経路は寄与していないことを確認した。また、JNK経路の構成遺伝子のノックダウンにより、小形条虫の感染量が増加する事が認められた。JNK経路は各種ストレスに応答し、それを低減する反応を惹起する機能があることが知られている。このため、自然免疫とは異なるストレス応答性の感染防御機構の存在を示唆すると考えられる。 さらに、小形条虫への感染防御機構の実態を探るため、我々は昆虫の中腸に着目した。その理由は、小形条虫の感染において、昆虫の中腸細胞は最初のインターフェイスであるとともに最大の物理的障壁となるためである。そこで、次世代シークエンサーを用い昆虫の中腸におけるトランスクリプトーム解析を実施した。その結果、小形条虫感染により203個の遺伝子の発現が有意に増減することがわかった。そして、STAT遺伝子依存的に、感染後に発現変動する遺伝子が13個存在することを特定した。これらの遺伝子は中間宿主昆虫における小形条虫感染防御機構を明らかにする糸口となると考えられる。
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