研究課題/領域番号 |
12J00993
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
早野 健太 大阪大学, 理学研究科, 特別研究員(DC1)
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キーワード | 4次元多様体 / レフシェッツ束 / 多重切断 |
研究概要 |
本研究の目的は、4次元多様体のファイバー構造に由来する組み合わせ的表示と、4次元多様体の微分構造との間の関係を明らかにするということであった。 4次元多様体の微分構造の強力な不変量として知られているSeiberg-Witten不変量は、シンプレクティック多様体のGromov不変量と密接に関係することがTaubesにより示されている。さらにシンプレクティック多様体のGromov不変量は、DonaldsonとSmithにより定義された、レフシェッツ束に対する不変量と同じ値になるということが、Usherにより証明されている。DonaldsonとSmithの不変量は、レフシェッツ束の多重切断の個数を数え上げることにより得られる。よって、レフシェッツ束から得られる4次元多様体の組み合わせ的表示と1微分構造の不変量との間の関係を調べるためには、この組み合わせ的表示と多重切断との関係を明らかにすることが重要であると考えられる。今年度に行われたRefik Inanc Baykur氏との共同研究により、レフシェッツ束の多重切断の、消滅サイクルに対する相対的な位置や自己交点数を、写像類群を用いて捉える方法を得ることに成功した。この結果により、Seiberg-Witten基本類を代表する曲面を、写像類群により組み合わせ的に解釈することが可能になった。またレフシェッツ束の多重切断は、球面上のレフシェッツ束の切断とファイバー和分解可能性との関係に関するStipsicz予想の反例を構成するために用いられたが、これまでの研究では種数が2の反例しか知られていない。この反例が反例たることの証明において、多重切断の存在が本質的な役割を担っているが、今回得られた方法により、レフシェッツ束と多重切断の対を組み合わせ的に構成することが可能になるので、この方法を、Stipsicz予想の反例で一般の種数を持つものの構成に応用できることが考えられる。実際これまでの研究で、我々の方法により種数2の反例に関する議論で用いられた多重切断を、写像類群の言葉で容易に捉えられることがわかっている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初の計画では、シンプレクティック4次元多様体のSeiberg-Witten不変量と、写像類群による組み合わせ的表示との関係づける予定であった。本研究で確かにSeiberg-Witten不変量と同値な不変量の値を計算するために用いる対象と、写像類群による組み合わせ的な表示との関係が明らかになったが、不変量の値との関係は未だ明らかになっていない。以上が、「やや遅れている」と評価した理由である。
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今後の研究の推進方策 |
近年全ての有向4次元閉多様体が許容するようなファイバー構造と、それに付随する4次元多様体の組み合わせ的な表示がいくつか導入された。それらのファイバー構造はいずれも安定写像であり、特に不安定であるレフシェッツ特異点を持つレフシェッツ束や単純特異レフシェッツ束とは異なり、ホモトピーとの相性が良いという特徴がある。この特徴は特に、4次元多様体の微分構造を研究するうえで、近年新たに導入された組み合わせ的表示が、レフシェッツ束に由来する表示よりも扱いやすい可能性を示唆しており、今後の研究の視野に含める必要があると考えられる。そこで今後はこれまでの研究と同時に新たな表示についても研究を行い、それらの表示と微分構造との関係や、異なる組み合わせ的表示の間の関係を明らかにしていく予定である。
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