本研究の目的は、4次元多様体のファイバー構造に由来する組み合わせ的表示と、4次元多様体の微分構造との間の関係を明らかにするということであった。今年度に行った、当研究課題に関連する研究は主に以下の3つである。 一つ目の研究は昨年度に引き続きレフシェッツ束の多重切断を調べる研究である。先行研究により4次元多様体の微分構造の強力な不変量として知られているSeiberg-Witten不変量と、レフシェッツ束の多重切断の個数を数え上げることにより得られるDonaldson-Smith不変量は同値であるということが知られている。昨年度のRefik Inanc Baykur氏との共同研究により、レフシェッツ束の多重切断の、写像類群による組み合わせ的表示を与えることができた。今年度はその結果を用いて、球面上のレフシェッツ束の切断とファイバー和分解可能性との関係に関するStipsicz予想の新たな反例を与えることに成功した。さらにここで得られた例がStipsicz予想のみならず、同じ4次元多様体上の異なるレフシェッツ束の構造を与えているということも示すことができた。このような例でこれまでに知られていたものは、ファイバー和分解可能なものであったが、今回発見した例はファイバー和分解不可能であるという意味で、既存の例とは本質的に異なるものである。 もう一つの研究は、4次元多様体の曲面図式と呼ばれる、近年導入された4次元多様体を表す図式に関する研究である。この図式は、4次元多様体上の「simple wrinkled fibration」と呼ばれる写像の、消滅サイクルを見ることにより得られる。本研究では、simple wrinkled fibrationの間のホモトピーと、消滅サイクルとの関係を明らかにした。またその応用として、曲面図式の新たな具体例を構成することに成功した。この図式は曲面上の単純閉曲線からなるもので、カービィ図式呼ばれる既存の図式と比較して扱いやすいことが予想される。また3次元多様体のヒーガードフレアホモロジーの類推として、4次元多様体の新たな不変量を導くことも期待されている(実際Jonathan Williams氏によりこのような試みが行われている)。そのような不変量与える際に、写像のホモトピーによる不変性は重要な問題となるが、我々の結果によりこの問題を具体的に定式化することが可能になった。
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