研究課題/領域番号 |
12J01009
|
研究機関 | 立教大学 |
研究代表者 |
栗田 卓 立教大学, 文学研究科, 特別研究員(DC2)
|
キーワード | 探偵小説 / 科学 / 江戸川乱歩 / 手塚治虫 / 横溝正史 |
研究概要 |
本研究課題「文学における「科学」と「人間性」の交錯に関する研究探偵小説を視座として」は、大正期以降の探偵小説ジャンルの作品群を分析対象とし、作品に現象する諸要素の社会的・思想的背景の解明を試みるものである。本年度は主に戦後(1945年~1960年)における探偵小説の分析を行った。特には戦後探偵小説の重要な作家として、江戸川乱歩と横溝正史に重点を置いた研究を行い論文「江戸川乱歩と手塚治虫一戦後〈科学〉表象の一側面」では、江戸川乱歩を中心とした「探偵小説」の読者層が手塚治虫を中心とした漫画の読者層と混在し共振する過程を、その背景をなす科学による敗戦からの復興のイデオロギー的側面も含めて共時的に明らかにしている。「探偵小説」や「漫画」の受容史を含めたこうした試みは乱歩の死を経て、1960年代の学生運動激化の時代とその後の反動的な横溝に代表されるエロ・グロ・ナンセンスの復興へと到る系譜、さらにはその前提を用意する戦前の諸状況を再考する上で不可欠の作業であり、今後の研究を継続する為の土台となる意義を有する。 本年度は、「探偵小説」およびその思想背景となる関連図書の重点的な購入や江戸川乱歩記念大衆文化研究センターを中心とした基礎文献資料の収集・調査を計画し、予定通り今後の博士論文執筆を含めた研究遂行の為の基礎的作業を行うことが出来た。具体的には、雑誌の調査・分析を、探偵小説雑誌を中心として通覧することで行い、「探偵小説」の形成・受容から発展に関わると判断した記事は収集し、国内外の諸思想・哲学や他領域の言説とあわせて分析・意味づけを行うとともに、影響関係にあると判断した思想・哲学関連の書籍を入手することを行った。日本近代文学としての「探偵小説」を成立から捉え直すための必須文献を科学研究費補助金によって重点的に収集することが出来た。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
江戸川乱歩を中心とした「探偵小説」および周辺作品の分析を縦軸とし、同時代の哲学・社会思想の言説、特に〈科学〉の同時代言説の分析を横軸として交通させ、同時代の世界的文脈との接合を試みる本研究において、現状では近代日本における〈科学イデオロギー〉に着目し戦中~戦後文学の一側面を明らかにすることができている。
|
今後の研究の推進方策 |
昨年度の実績を足がかりとし、「戦後」における「探偵小説」と〈科学〉の結託と離反をもたらした戦中、戦前の状況を分析する。戦中における「探偵小説」の検閲状況を江戸川乱歩の「芋虫」などを中心に検討するとともに、「偉大なる夢」などの「科学小説」として戦中に企図された作品群の分析を進める。 また、平行して大正期以前の「探偵小説」の成立に関して、エドガー・アラン・ボーの「モルグ街の殺人」の翻訳を通じた受容を検証し、「科学」に立脚した小説群の生成過程を検証し、諸翻訳の翻案から完訳までの過程での作品内容の変遷を通じ、「探偵小説」の近代日本における成立を測定する。またそれらの翻訳から影響を受けた芥川龍之介、谷崎潤一郎、佐藤春夫らの作品を検討する事で、江戸川乱歩が「探偵小説」を執筆するに至る系譜を析出することを試みる。
|