研究課題/領域番号 |
12J01035
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
鈴木 江津子 北海道大学, 大学院・医学研究科, 特別研究員(PD)
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キーワード | 海馬 / シナプス可塑性 / アセチルコリン / カリウムイオンチャネル |
研究概要 |
本研究課題は、海馬シナプス可塑性を誘導する内因性メカニズムを検討することを目的としている。これまで内因性メカニズムの候補としてアセチルコリン受容体とカリウムイオンチャネル(K^+チャネル)に着目し、中隔野からのアセチルコリン入力が密に存在する海馬CA1野の上昇層への刺激により引き起こされるCA1野の長期増強促進メカニズムを検討してきた。フィールド電位記録法を用いた実験結果より、上昇層を刺激することにより放出されるアセチルコリンがムスカリン性アセチルコリン受容体(mAChR)を活性化させ、Kv7/M型K^+チャネルを不活性化させることが示唆された。この研究成果は、European Journal of Neuroscience誌に掲載された(Suzuki & Okada, 2012)。上昇層への刺激はアセチルコリン受容体活性化によるslow depolarizationを起こすことが報告されている。このslow depolarizationにKv7/M型K^+チャネルの不活性化が関与するか検討するためスライスパッチクランプ法を用いて実験を行った。ホールセル法を用いた場合は比較的小さなslow depolarizationしか記録されなかった。 この理由として細胞内液と電極内液の置換により細胞内信号伝達経路に必要な要素が失われた可能性が考えられた。そこで細胞内の環境が損なわれない微小電極および穿孔パッチクランプ法を用い実験を行った。その結果、ホールセル法を用いた場合よりもslow depolarizationの程度が大きく、mAChR阻害薬であるアトロピン投与によりslow depolarizationが阻害される例もあり実験条件の改善が見られた。しかし薬物投与の効果を正確に評価するための長時間の実験に耐えうる安定したslow depolarizationを得ることができなかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
アセチルコリン受容体活性化とKv7/M型カリウムイオンチャネルの不活性化が、上昇層刺激による海馬CA1野の長期増強促進に関与することを示したが、その詳細なメカニズムについては明らかにできなかった。一般的なホールセル法以外にも、微小電極法や穿孔パッチクランプ法の適応を試みるなどしたが、現在までに薬物効果を確認するための実験に耐えうるほどの改善は認められなかった。
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今後の研究の推進方策 |
アセチルコリンによる海馬シナプス可塑性への作用だけではなく、神経伝達に対する作用も検討する。また、アセチルコリンに限らず、海馬神経伝達・可塑性に影響を及ぼす内因性因子を広く探索する。
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