研究課題/領域番号 |
12J01044
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
西村 和帆 筑波大学, 大学院・生命環境科学研究科, 特別研究員(DC1)
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キーワード | アポトーシス / 細胞老化 / p53 / 核小体 / rRNA |
研究概要 |
【背景・目的】 近年、細胞核に存在する小器官である核小体が、細胞のストレス応答において重要な役割を担うことが明らかになってきた。核小体は、リボソーム合成の場として知られている。そこでは、リボソームDNAから未成熟なリボソームRNAが転写され、プロセシングを受けて成熟したリボソームRNA(rRNA)になり、リボソームに組み込まれる。申請者はこれまでに、核小体の新規機能として以下の2点を明らかにしている。 1.rRNA転写阻害時には核小体が縮小し、アポトーシスが引き起こされる。 2.rRNAプロセシング阻害時には核小体が肥大化し、細胞老化が誘導される。 しかし、リボソーム生合成の阻害段階によって細胞の運命が選択される意義やその詳しい分子メカニズムは明らかでない。そこで、核小体を介して細胞の運命決定が行われる意義や、その分子メカニズムを明らかとすることを目的とし研究を進めた。 【結果・考察】 1.発現変動遺伝子の網羅的解析 マイクロアレイを用いた解析の結果、rRNA転写阻害時とrRNAプロセシング阻害時ではp53標的遺伝子の発現に違いがあることが明らかになった。 2.p53活性化因子の同定 rRNA転写阻害時には核小体因子MYBBP1Aを介してp53が活性化するのに対し、rRNAプロセシング阻害時には、RPL11を介してp53が活性化することを明らかにした。 以上から、rRNA転写阻害時とrRNAプロセシング阻害時ではp53活性化因子が異なり、それによってp53の活性化状態、ひいてはp53標的遺伝子の発現に違いがみられることが明らかになった。核小体のストレス感知には、rRNAが深く関わっており、rRNA量が核小体サイズを決定し、そのサイズによって運命決定が行われているようだ。今後は、核小体を介して細胞の運命決定が行われる意義を解析し、ストレスセンサーとしての核小体の機能を明らかにしていく。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初、1年目と2年目において、リボソーム生合成の阻害段階によって細胞の運命が選択される分子メカニズムを明らかにする計画でした。しかし実際は、1年目において、以下の3点を明らかにしました。 1.リボソーム生合成の阻害段階によってp53の標的遺伝子の発現に違いがあること 2.リボソーム生合成の阻害段階によってp53のLys382のアセチル化状態が異なり、転写活性に違いがあること 3.リボソーム生合成の阻害段階によってp53を活性化させる因子に違いがあること 以上から、リボソーム生合成の阻害段階によってp53の活性が異なり、細胞の運命決定が行われるメカニズムを示しました。予定していた分子メカニズムが1年で明らかに出来たことから、計画よりも早く進行していると判断しました。
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今後の研究の推進方策 |
申請者は現在、交付申請書の3年目に計画していた、核小体を介して細胞の運命が決定される意義を明らかとするため、rRNA転写やrRNAプロセシングが阻害される生理的なストレスを探索している。その結果、これまでに、グルコース飢餓やUV照射などのアポトーシスが誘導されるストレス時には『rRNA転写が阻害される』のに対し、継代ストレスのような老化が誘導されるストレス時には『rRNAプロセシングが阻害される』ことを見出している。今後は、生理的なストレス下においても、リボソーム生合成の阻害が細胞の運命決定を担っているか検討する予定である。さらに、マウス個体において、rRNAのプロセシング因子をノックアウトすることで、個体老化との関係も検討する予定である。
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