本研究の動機となる重要な問題は、「Large Hadron Collider (LHC)で超対称粒子が発見されない程重い場合、どのように超対称性の痕跡を見つけるか」である。この問題を解決する鍵として着目するのは"QCD過程におけるパリティの破れ"である。標準模型では弱い相互作用のみがパリティの破れを引き起こすが、超対称性が存在すると、通常はパリティを破らないQCDでもパリティが破れる可能性がある。このパリティの破れを調べることで、超対称性について間接的に手がかりを得ることができる。今年度に実施した研究の成果として、まず、前年度に行ったメソンの崩壊におけるパリティの破れの寄与に関する解析を、さらに精密に実施した。以前の解析では、束縛状態を形成するグルーオンの長距離力を、簡単のためクーロンポテンシャルで近似していた。しかし、QCDにおいては閉じ込めの効果も、崩壊率の評価に関係するため、実験からフィットした線形項をポテンシャルに含めて解析を行うことで、精度の向上を図った。その結果をまとめたものが、Acta Physica Polonica Bに掲載された。また、前年度の研究により、余剰次元を持つ模型においても、QCDでパリティを破る可能性があることを指摘できたため、本年度では更に詳細な解析を行い、その結果、warpした余剰次元を持つ模型においては、LHCでも観測可能なパリティの破れが起こり得ることを明らかにした。同様のパリティの破れが、超対称性だけでなく、他の新物理においても起こり得ることを調べることは、標準模型を超える物理の判別のためには重要である。その研究成果は、Physical Review Dに掲載された。
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