研究概要 |
本研究課題では,熱帯のマングローブ域における魚類生産メカニズムを解明するために,定住性魚類の資源動態を決定する着底稚魚の成長速度と生残決定機構を明らかにすることを目的としている.研究を開始した本年度では,まず,研究対象種であるオキフエダイとセダカクロサギの耳石の輪紋が1日に1輪形成される日周輪であるかどうかを飼育実験で検討した.沖縄県西表島のマングローブ域において,オキフエダイ(平均体長36mm)とセダカクロサギ(平均体長30mm)を30個体ずつ採集し,アリザリン・コンプレキソン(ALC)を混ぜた海水で24時間飼育することで,各個体の耳石を染色した.次に,2つのFRP水槽を4区(A区,B区,C区,D区)に分け,各種を7~8個体ずつ各区に投入して飼育を開始した.餌料には市販の配合飼料を用いた.個体の回収については,A区を5日後,B区を10日後,C区を15日後,D区を20日後とし,回収した個体から3つの耳石(扁平石,礫石,星状石)を摘出した.各個体の耳石を研磨し,耳石上のALCのマーク(飼育開始時)から縁辺(飼育終了時)までの区間の輪紋数と各区の飼育日数を比較した.その結果,両種において扁平石の対象区間の輪紋数は飼育日数とほぼ同様であり,これらの輪紋は1日に1輪形成される日周輪であることが判明した.今後は,この知見を踏まえ,野外で採集した着底稚魚に対して耳石日周輪解析を行うことにより,対象魚種の日齢,孵化日,および日間成長速度を調べる予定である.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
採択初年度の研究成果として,耳石の輪紋形成に関する知見のほとんどない研究対象種に対して,耳石輪紋が日周輪であることを確かめることができた.これは,今後,資源生態学的なアプローチによって対象魚種の加入,成長,生残を検討するためには必要不可欠な知見である。
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今後の研究の推進方策 |
今後は,平成24年度の成果をもとに,野外で採集した着底稚魚の孵化日,日齢,目間成長速度を調べると同時に,各個体の炭素・窒素安定同位体比を分析することによって,着底稚魚の成長を支える餌資源を検討する.さらに,対象種稚魚の捕食者である大型魚食魚の胃内容物を調べることにより,稚魚のサイズ,成長速度,依存する餌資源などが被食されやすさとどのような関係にあるのかを検討する.大型魚食魚の採集については,個人レベルでの採集器具ではしばしば困難であるため,平成25年度では傭船を依頼して,大型魚の採集を行う予定である.
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