研究概要 |
本研究課題では, 熱帯のマングローブ域における魚類生産メカニズムを解明するために, 着底稚魚の成長を支える餌起源や, 稚魚の成長速度と生残の関係を明らかにすることを目的としている. 平成25年度には, 水産有用種であるフエダイ類3種の稚魚の成長に対して, マングローブの生産した有機物がどれほど貢献しているかを安定同位体分析によって検討した. マングローブ域に存在する代表的な5種類の生産者(マングローブ, 植物プランクトン, 底生微細藻類, 褐藻類, 緑藻類), フエダイ稚魚の餌生物であるカニ類, エビ類などの小型無脊椎動物, およびフエダイ類3種の稚魚の炭素・窒素安定同位体比を調べた. 分析の結果, 一次生産者の炭素安定同位体比は各生産者間で明瞭に異なった. 餌生物のうち, ワタリガニ類, スナガニ類, テナガエビ類, クルマエビ類, ヨコエビ類などの炭素安定同位体比は底生微細藻類に近い値を示した. 一方, ベンケイガニ類やテッポウエビ類といった一部の餌生物はマングローブに近い値を示した. 稚魚の炭素・窒素安定同位体比は種によって異なり, オキフエダイとニセクロホシフエダイの稚魚は底生微細藻類に近い値を示したのに対して, ゴマフエダイ稚魚はマングローブに近い値を示した. したがって, これらのフエダイ類稚魚は異なる生産者由来の有機物を利用して成長しており, マングローブ由来の有機物はゴマフエダイという一部のフエダイ類にとって重要であるが, 他の種にとってはあまり重要ではないことが示唆された.
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今後の研究の推進方策 |
今後は傭船を依頼して捕食者である大型魚食魚を採集し, それらの胃内容物を調べることによって, 稚魚の体サイズ, 成長速度, 依存する餌資源などが被食されやすさとどのような関係にあるのかを検討する予定である.
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