研究課題
炎症刺激を受け続けている癌内部の血管は未熟で、透過性が異常に亢進しているため、癌細胞が血中へ侵入しやすい。我々の研究室は、prostaglandin D2(PGD2)が癌の血管透過性を抑制することで癌の成長を阻害することを発見した。そこで、このPGD2の透過性抑制作用を応用して、癌細胞の血中への侵入を阻害することで癌の転移を抑制できるのではないかと考えた。そのために、PGD2の透過性抑制作用の詳細なシグナル伝達経路を知ることが重要であると考え、検討した。蛍光標識デキストランの透過性および電気抵抗の測定によって、PGD2が濃度依存的に単離内皮細胞の透過性を抑制することを確認した。PGD2にはDP、CRTH2の2つの受容体が存在する。各受容体の作動薬、拮抗薬をもちいて、PGD2の透過性抑制作用がDP受容体の刺激を介することを示した。免疫染色によって、DP受容体の刺激が内皮細胞の接着結合を強固にしていることがわかった。これら細胞骨格の制御に関わるRac1の阻害薬の前処置は、DP受容体刺激による接着結合強化や透過性抑制作用を阻害した。DP受容体を介した透過性抑制作用の詳細な機構について検討した。DP受容体の刺激は内皮細胞内のcAMP濃度を上昇させた、cAMPの下流に存在するprotein kinase A(PKA)の活性を増加させた。PM阻害薬の前処置はDP受容体刺激によるRacl活性化、および透過性抑制作用を阻害した。PGD2の透過性抑制作用をin vivoのモデルを用いて検討した。C57BLマウスの耳にcroton oilを塗布すると、耳の透過性亢進がみられたが、DP作動薬を投与するとこれは抑制された。以上の結果より、PGD2の内皮透過性抑制作用はDP/cAMP/PKA依存的なRac1の活性化と細胞接着結合の強化によることが示された。
2: おおむね順調に進展している
PGD2の血管内皮細胞の透過性抑制作用の詳細なメカニズムについて明らかにし、それを発表できたため。
PGD2の合成酵素欠損マウスを用いて、PGD2の血管透過性抑制がどのように実際の癌の転移に関与するのかを検討する。また、PGD2の合成酵素阻害剤や受容体拮抗薬を投与することで、癌の転移への臨床応用が可能かどうか検討する。
すべて 2013 2012
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件) 学会発表 (2件)
Arteriosclerosis, Thrombosis, and Vascular Biology
巻: 33 ページ: 565-571
10.1161/ATVBAHA.112.300993