研究課題/領域番号 |
12J01103
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
洪 達超 大阪大学, 大学院・工学研究科, 特別研究員(DC1) (90769689)
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キーワード | 水の酸化触媒 / 酸素発生 / ニッケル複合酸化物 / 可視光駆動 |
研究概要 |
ルテニウム錯体を光増感剤、水酸化イリジウム粒子を水の酸化触媒として用いると、酸性条件下、可視光を照射することで、水と酸素から過酸化水素が得られることを見出した。しかしゃ過酸化水素は、一定の濃度に達すると、系中に存在する光増感剤および水の酸化触媒と反応し、水と酸素に分解されてしまうことが分かった。過酸化水素の分解を抑えるために、過酸化水素製造における反応の律速段階である水の酸化反応について検討を行った。高効率な水の酸化触媒およびその反応機構の解明は複合化システムにおいても非常に重要である。 天然の光合成系では、水2分子を酸素1分子へと酸化することで、4電子と4プロトンを取り出しCO_2の還元に利用している。人工的な光合成系を構築するためには、水から電子を取り出すための酸化触媒の開発が重要である。光駆動による水の酸化反応において、イリジウムやルテニウム、コバルトといったレアメタルを含む金属錯体や酸化物を用いた水の酸化触媒が多く報告されている。今回、豊富に存在するニッケル鉄およびニッケルマンガンの複合酸化物を触媒に用いた光触媒反応系で、効率良く水の酸化が進行したことを初めて見出した。これらの高活性な水の酸化触媒であるニッケル複合酸化物は安価なため、より低コストで過酸化水素を製造することが期待される。また、安価な金属である鉄を使った錯体を用いた水の酸化反応機構についても大きな成果が得られた。鉄錯体を用いた水の酸化反応で、実際に水を酸化する触媒種を明らかにすることは、触媒を設計する上で非常に重要である。酸性水溶液の条件で反応を行う熱的な水の酸化では、鉄錯体が水の酸化を触媒するが、塩基性水溶液の条件で反応を行う光駆動による水の酸化では、鉄錯体が分解して生成した鉄水酸化物が実際に水の酸化を触媒することを明らかにした。 これらの成果として、一報はJournal of the American Chemical Societyに掲載され、もう一報は現在同誌に投稿中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
水酸化イリジウムを水の酸化触媒として用いて来たが、これをより安価なニッケル鉄およびニッケルマンガン複合酸化物に代替することが可能になったことは大きな進展である。ニッケル複合酸化物は、水の酸化反応活性において水酸化イリジウムよりも劣るが、反応条件によっては同等なパフォーマンスをすることが分かった。
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今後の研究の推進方策 |
安価なニッケル鉄およびニッケルマンガン複合酸化物は水の酸化に対して高い活性を示すので、水酸化イリジウムの代替として用いた水と酸素から過酸化水素の製造を行う。また、生成した過酸化水素の分解を抑えるために、水の酸化触媒および光増感剤であるルテニウム錯体をメソポーラスシリカアルミナなどの担体に固定することを試み、担体の内孔のサイズが過酸化水素生成の触媒活性に与える影響を調べてその最適化を行う。これと同時に、過酸化水素製造の律速である水の酸化反応についても安価な金属を使用したより活性の高い触媒開発を行う予定である。
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