研究課題/領域番号 |
12J01112
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
弓削 達郎 大阪大学, 理学研究科, 特別研究員(PD)
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キーワード | 光学伝導度 / 総和則 / 有効ハミルトニアン / 断熱ポンプ / 量子マスター方程式 / 非平衡定常状態 / エントロピー生成 / クラウジウス関係式 |
研究概要 |
応答関数、とくに電子系の光学伝導度の総和則の研究を進展させた。光学伝導度の総和則の成立には因果律のみが本質的に重要であることを示した。さらに、総和則の形を決めるのは、系を記述するハミルトニアンのうちの照射光のベクトルポテンシャルの自乗に比例する項であることを示した。また、このことを応用して、これまで全てのバンドを考慮した系もしくは単一バンドのみを考慮した系だけで具体系が分かっていた光学伝導度の総和則を、(全てではないが)複数のバンドをもつ電子系でも導出することに成功した。その際、光が照射されたときの複数バンド電子系の有効ハミルトニアンを導出することが重要であった。 量子開放系を記述する一般的な量子マスター方程式を用い、系内のパラメータや熱浴のパラメータ(温度と化学ポテンシャル)をゆっくりと変化させたときに熱浴から流入する物理量のキュムラント生成関数を導出し、そこにマスター方程式の生成子に関する幾何学的位相からの寄与が存在することを示した。これは、断熱ポンプと呼ばれる現象を量子マスター方程式という新たな視点から見直したことに相当しており、この研究で導出したポンプ量の幾何学的表現を用いることで熱浴との結合や系内の相互作用の影響をうまく扱える枠組みが与えられた。実際、この枠組を適用した量子ドット系では、系内に相互作用がなければ熱浴のパラメータのみを変化させても断熱ポンプは起こらないというポンプ禁止則が存在することや、系内に相互作用を導入することでこの禁止則が解かれることを示した。また、この結果はバイアス電圧がかかっているような非平衡条件下でも使えるものである。そのことを利用して、パラメータをゆっくりと変化させたときの非平衡定常状態間の遷移に伴うエントロピー生成の大きさを求めた。その結果、非平衡定常状態の熱力学で期待されるクラウジウス関係式の素朴な拡張は一般には不可能であることを示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
光学伝導度の総和則を複数バンド系において導く計算が申請時に予想していたよりも難しく時間がかかった。そのため、この課題は達成できたが、それ以外の二つの課題である、非平衡定常状態における低振動数領域でのゆらぎと応答の理論の構築と測定過程を含めたゆらぎと応答の量子論の構築はまだ定式化の途中の段階にとどまっている。
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今後の研究の推進方策 |
今年度に達成しきれなかった課題に集中的に取り組む。低振動数領域でのゆらぎと応答の理論は分子動力学シミュレーションによる具体系での数値計算と確率過程を用いた現象論とを併用して定式化を進める。測定過程を含めたゆらぎと応答の量子論は量子ドットに測定器がついた系を具体系として考えながら一般論の構築を並行して進める。また、光物性系の具体例として結合共振器列を考え、これの非平衡定常状態の性質(特に、ゆらぎと応答)を調べる。
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