研究概要 |
本研究では、多様な深海微生物株を確保するため、西部北太平洋の航海で得られた海水試料から細菌を分離した。分離方法として、海洋微生物で高い培養効率が知られているHTC(Connon and Giovannoni, 2002)と、寒天培地培養法(組成20% Marine agar2216Eと10% MarineR2A)を用いた。現場温度に従い4℃もしくは10℃で3ヶ月間培養した。増殖が確認された試料は16SrRNA遺伝子の系統解析を行った。HTCで42株が分離され、16SrRNA遺伝子の系統解析によりAlcanivorax属、Eryth-robacter属、Pseudoalteromonas属、Cramella属、Marinobacter属、Sulfitobacter属,Hyphomonas属に近縁であることが確認された。同様に寒天培地培養法によって分離した株はEryth,robacter属、Polaribacter属、Halomonas属、Fseudoalteromonas属、Limnobacter属等であった。そのうち、Shewanella属、Colwellia属、Mortitella属など、好圧力性細菌としてよく知られる一群だけでなくLinmobacter属、Rubritalea属等、これまで浅海からの報告例があったものの、その生態的情報が少ないグループも分離された。さらに多数の株がOMGgroupに入った。 Micrococcus属、Sagittula属、Sphingopyxis属、Loktanella属、Polaribacter属、Marinobacter属、Mortitella属、Sphingomonas属から計8株を選んで加圧培養し、生理学的特徴と増殖可能圧力範囲を調べた。培養はMarineBroth2216E液体培地を用いて、20℃と10MPa加圧もしくは大気圧で二週間培養し、OD660によって増殖を調べた。各株の加圧増殖率比(加圧下増殖率/大気圧増殖率)は0.11、0.19、0.23、0.43、0.50、0.69、0.74、0.82であった。この結果から、Micrococcus属、Sagittula属、Sphingopyxis属は圧力高感受性菌、Loktanella属、Polaribacter属、Marinobacter属、Mortitella属、Sphingomonas属は圧力低感受性菌と判断した。Loktanella属、Sphingopyxis属、Polaribacter属の株を20% Marine Broth2216E液体培地を用い、20℃と10MPa加圧条件で一週間培養して、脂肪酸の変化を調べた。この結果、加圧条件下では大気圧条件と比べてLoktanella属のC16:0(大気圧/加圧;5.7/5.7%)脂肪酸、Sphingopyxis属のC16:0(9.4/17.8)とC18:0(0/9.9%)脂肪酸、Polaribacter属のiso-C13:0(13.9/7,2%)、iso-C15:0(32.6/40.8%)脂肪酸の変化が認められた。大気圧条件でTUF/TSF(total unsaturated fatty acid/total saturated fatty acid)ratioは8.0,16.5,0.14と加圧条件でTUF/TSF ratioは2.6,11.4 0.13であった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
予想した通り、深海からShewanella属,Colwellia属,Pseudomonas属等有名な好圧力性細菌だけでなくLimnobacter属,Rubritalea属等浅海にも生態的情報が少ないグループも分離された。現在、分離したRubritalea属に近縁な株に関し、新属の提案として登録準備中である。分離された株の圧力耐性範囲の調査は50%が完了してある。
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