前年度に全体像を提示したサハリン残留者問題に関する各論を、サハリン残留日本人および日本人引揚者団体については移民学会口頭報告(6月)、サハリン韓人については学会誌『境界研究』の論文(3月)、樺太華僑の帰還については神戸華僑華人にて口頭報告(5月)を行うなど、全体像の提示から各論の議論へという流れを実現し、樺太植民地社会の解体過程の具体像を明らかにした。 サハリン島史研究のための理論的枠組みについては、中華民国の台湾島史研究者との交流を通じた民主化以降の二地域における新しい歴史学・地域史研究の動向の比較論を2014年度京都大学南京大学社会学人類学若手ワークショップで口頭報告(8月)を行ったほか、同志社大学で行われた国内植民地論に関するシンポジウム(2月)では、スラブ・ユーラシア研究所での研究の成果として「境界地域史研究」という新しい歴史学分野の可能性を提起した。 二系統に分かれていた在日サハリン帰国韓人団体の活動資料の収集を終え、サハリン残留/帰国日本人関連のものと合わせて現在把握している限りの、国内のサハリン残留者関連民間団体の重要資料の収集を完了した。また、冷戦期帰国日本人の聞き取り調査を実現するなど、サハリン残留者の多様性の実例の把握が進んだ。 本研究では樺太植民地社会の解体過程を、エスニック・グループごとに捉えるだけではなく、新たな移住者でもあるソ連人内の各エスニック・グループも含めた相互の関係性や境界性からも明らかにすることに成功した。さらに、こうした実証研究の積み重ねから植民地史研究という枠組みの限界性を指摘し、国際的な近現代東アジア史研究の枠組みのひとつとして境界地域史研究という枠組みを提起するにいたった。
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