研究課題
報告者はこれまでに、生体内分子相互作用を選択的に制御する方法として、鋳型となるタンパク質に相互作用する分子構造を鋳型から有機合成化学的に写し取る「鋳型誘起合成」を開発し、細胞内シグナル伝達に関わるタンパク質・タンパク質相互作用を選択的に阻害するペプチド分子の創製に成功している。本研究課題では、本法を組織上、あるいは動物内においても汎用的に利用できる方法とすることを大きな目的としているが、まずは生体分子混在系でも利用できる新たな結合形成反応の開発を行った。すなわち、(i)これまでに報告者が見出している共役イミン化合物の新奇な[4+4】反応を活用し、生成するジアザビシクロオクタン誘導体をリン酸基や各種金属の配位構造として利用する方法と、[iD予備実験で見出したアルギニン側鎖のグアニジン基への共役アルデヒドのイミン形成に続く5-endo型共役環化反応を利用する方法の2つを計画した。本年度では特に後者の反応について集中的に検討を行った。すなわち、タンパク質中のアルギニン残基が脂質代謝物である共役アルデヒドにより翻訳後修飾を受け、2-アミノイミダゾール化されることが報告されている。そこで、この反応を用いれば生体内でもアルギニンを標的官能基として、.様々な構造のライブラリー構築を行うことが可能となり、目的とする鋳型誘起合成に用いることができると期待した。種々検討の結果、アルギニン残基に対して、フマルアルデヒド酸メチルを作用させることにより、温和な条件下で2―アミノイミダゾール誘導体を70~90%の収率で得ることができた。さらに、この反応系内に様々なアミンや置換アルデヒドを続けて作用することにより、最初に得られる2―アミノイミダゾール誘導体に対して様々な官能基変換や構造変換を行うことが可能となった。このように、アルギニン側鎖のグアニジン官能基に対して構造多様性を有するヘテロ環化合物を構築することに成功し、組織上や動物内での鋳型誘起合成に向けた基礎反応を確立することができた。
2: おおむね順調に進展している
本年度では、申請書に記した研究計画通りに、以前報告者が活用した自己活性化クリック反応に代わる新たな分子構造構築反応を確立した。本法では、臓器上や生体内でのタンパク質に対して様々な構造を持つアミンやアルデヒドを作用させることにより、アルギニン選択的に構造多様性のある分子群を構築することができる。すなわち、鋳型に強く相互作用する分子を生体内でのアルギニン残基上に構築できることが期待できる。以上の成果より、研究はおおむね順調に進展していると考える。
今後は、先に報告者が見いだした共役イミン化合物の新奇な[4+4]反応を活用して、生成するジアザビシクロオクタン誘導体をリン酸基や各種金属の配位構造として利用する方法も検討する。さらに今年度見出したアルギニン残基への選択的なライブラリー構築反応と併せて、生体内で鋳型誘起合成を実施する。
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