研究概要 |
自己組織化の数理モデルを応用した自己組織型ネットワーク制御が数多く提案されている. しかしながらこれらの多くは, ネットワーク制御の性能向上を求めるあまりに, ネットワーク制御のランダム性を極端に排除してしまうことが多く, その結果, 頑健性が損なわれてしまっていた. 平成25年度の研究では, ネットワーク制御の各種パラメータを調整して, 熱力学的状態量である自由エネルギーを極小化させることで, 性能および頑健性が両立した自己組織型ネットワーク制御の実現が可能であると考えて, この設計方針の妥当性の確認に取り組んだ。具体的には, 数学解析で妥当性を検証すると共に, 既存の自己組織型ネットワーク制御のパラメータを設計方針の基づき調整することで, 頑健性の向上が可能である事を確認した. 具体的に得られた成果をしたにまとめる. ①自由エネルギーが極小化するようにネットワーク制御を設計することの妥当性に関する検証 マルチパス制御を念頭に置いて解析モデルを作成し, 熱力学的状態量である内部エネルギー, 温度, エントロピーを定式化して, それらを用いて自由エネルギーを定式化した. 定式化した自由エネルギーに具体的な数値を代入して数値例を取得して, 自由エネルギーが極小化する場合のネットワーク制御の状態を定性的に議論することで, これらの定式化の妥当性および自由エネルギーが極小化するようにネットワーク制御を設計することの妥当性を確認した. ②熱力学に基づくパラメータ調整による自己組織型ネットワーク制御のロバスト性の向上の確認 大腸菌の環境適応メカニズムであるアトラクタ選択モデルを応用したマルチパス制御を題材としてシミュレーションモデルを作成して, 自由エネルギーが小さくなるようにネットワーク制御のパラメータを設定して評価することで, ネットワーク制御の頑健性が向上出来ることを確認した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
性能を維持しつつ, 高い頑健性を有する自己組織型ネットワーク制御を実現するためには, 決定的な振る舞いとランダムな振る舞いのバランスをどの様に設計するのかが難しい問題であるが, 熱力学の知見に基づくことでこの設計方法についてもめどが立った. この設計方法に関しては, 平成26年度に着手する予定であった課題であり, 当初の計画以上に進展しているといえる.
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今後の研究の推進方策 |
平成25年度の研究で取り組んだ熱力学に基づく自己組織型ネットワーク制御の設計方法に関する研究は, 単一のネットワーク制御のみを対象としたものであった. しかしながら, 実際の通信ネットワークは階層化, 仮想化されており, 縦方向, 横方向の相互作用が存在しており, これらを考慮に入れることなくネットワーク制御を設計することは妥当ではない. そのため, 平成26年度の研究では, 平成25年度に得られた成果に, 縦方向, 横方向の相互作用の影響を加味することによって, より現実的な環境下でも適切に動作する自己組織型ネットワーク制御の設計を可能とする予定である.
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