研究課題
本研究は日本人英語学習者のテキスト読解を研究対象とし、読解中の予期的推論の生成に関わる要因の検証、及び生成された予期的推論が誤っていた場合にその活性化を抑制・推論を修正するプロセスを検証することを目的とする。初年度である24年度では、2つの実験を通して、英文読解中の予期的推論の生成に関わる要因の検証を行った。1つ目の実験では、推論概念を表す単語に対する再認課題の正反応時間と、読解後の手がかり再生課題における推論情報の混入状況に基づく分析が行われた。その結果、学習者は文脈の収束度が高いとき、及び推論がテキストの局所的一貫性の保持に必要となるときに、最も予期的推論を生成する可能性が高いことが明らかにされた。2つ目の実験では、学習者自身に関連した要因としてテキスト読解中の認知負荷を操作し、認知負荷と予期的推論活性化との関わりについて検証を行った。読解中にテキストに関連しない単語の記憶を求める、二重課題を用いた手法によって読解中の認知負荷の高さを操作し、語彙性判断課題の正反応時間と読解後の推論内容に対する妥当性判断課題の分析が行われた。その結果、読解中に付加的な認知負荷が与えられると予期的推論生成が困難になり、特に即時的な推論生成を阻害する可能性が示唆された。これまで英文読解中の予期的推論生成を検証した研究は少なく、本研究の上記2つの実験からその生成に関わる要因が特定されたことは、重要な意義がある。また、本研究結果からは、学習者が流暢な読解や積極的な読解を達成するためには予期的推論の生成が有用であるが、教室場面ではテキストの特徴や学習者の認知能力、及びそれらのバランスを考慮したうえで、予期的推論を促す活動が行われることが望ましいと示唆される。
1: 当初の計画以上に進展している
本年度では、当初の目的のとおり英文読解中の予期的推論生成に関わる複数の実験を行い、それぞれにおいて「テキスト特徴(文脈の収束度と局所的一貫性の保持)」と「読解中の認知負荷」が英語学習者の推論生成に与える影響を明らかにした。これらの研究結果については、関連する国内外での学会で発表され、さらに年度中に論文としてまとめられ、学会誌掲載まで至っている。この点は計画以上の進展であったといえる。
本年度では、テキスト・学習者の双方に関連した要因を扱い、英文読解における予期的推論生成の検証を試みたが、学習者に関連した要因について推論生成を阻害する側面しか検証できていないため、次年度では推論生成を促すと考えられるテキスト以外の要因(読解教示)について検証を行う。さらに、生成された予期的推論が誤っていた場合にその活性化が抑制されるのか、そして学習者はそれを修正した正しいテキスト理解を達成できるのかについても次年度より検証を行っていく。次年度では、国内の関連学会での研究成果の発表を行うとともに、世界最大の応用言語学学会であるアメリカ応用言語学学会での成果発表を目指し、グローバル規模で研究課題の成果を発信していきたい。
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ARELE(Annual Review of English Language Education in Japan)
巻: 24 ページ: 173-188
JACET (Japan Association of College English Teachers)Journal
巻: 56 ページ: 19-38
ARELE (Annual Review of English Language Education in Japan)
巻: 24 ページ: 77-92