研究課題
本研究は日本人英語学習者のテキスト読解を研究対象とし、読解中の予期的推論の生成(後続のテキスト内容に関する予測)に関わる要因の検証、及び生成された予期的推論が誤っていた場合にその推論を抑制・修正するプロセスの検証を目的としたものである。2年目である25年度では、前年度の予期的推論の生成に関する実証結果に基づき、2つの実験によって誤った予期的推論の抑制・修正の検証を行った。1つ目の実験では、学習者は特定の予期的推論の生成が促されるものの、後続の文脈によりその推論が否定される文章を読解した。英文読解直後に提示された推論情報に対する学習者の反応時間を分析し、推論が否定された直後では、誤った予期的推論の活性化は抑制されていないことが明らかになった。一方で、読解から時間を空けて行われた推論情報への再認課題の分析結果からは、読解後の長期テキスト記憶では誤った予期的推論が部分的にではあるが修正されていたことが示された。2つ目の実験では、学習者の英文読解熟達度を主要な要因として、読解から時間を空けた推論情報への再認課題のみが行われた。その結果、熟達度が高い学習者ほど自身の誤った推論を柔軟に修正している可能性が指摘された。初年度では英文読解中の予期的推論生成を検証していたが、本年度はその検証を発展させる形で上記のような生成された推論の抑制・修正の検証が行われた。2つの実証研究の結果からは、日本人学習者の誤った推論の抑制・修正に対する困難性が指摘されたと同時に、柔軟に自身の理解を修正する能力が英文読解力の重要な側面となることが示唆された。これらの点は、英文読解指導においては学習者の活発な予測を促すだけでなく、その予測を十分に修正できる能力を育成することの重要性を示すものである。
1: 当初の計画以上に進展している
本年度では、当初の目的・計画のとおり、英文読解中の誤った予期的推論の抑制・修正に関わる複数の実験を行った。これらの実験においては、英語学習者における誤った推論の抑制・修正の困難性と、英語熟達度との関わりが指摘された。このような研究結果については関連する国内外での学会で発表され、さらにその一部は年度内に査読付き論文として採択されるに至った。この点は当初の計画以上の進展である。
本年度・前年度では、英文読解における予期的推論生成とその抑制・修正の検証を行った。しかしながら、これらの検証では未だ解明されていない点も残る。推論の生成に関しては、これまでの実験に含まれていた要因に加え、多くの先行研究で指摘されているような「読解方略教示の影響」についての検証も望まれる。さらに、本年度の研究からは誤った予期的推論の抑制・修正の困難性が指摘されているが、その困難性が生じるプロセスをより詳細に明らかにするため、視線計測のような緻密な検証を可能にする手法によって実験を行うことが必要となる。次年度ではこれらの課題を解決し、国内外での関連学会でのその成果を発表するとともに、最終年度としてこれまでに行った研究成果を博士論文としてまとめる。
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すべて 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 4件) 学会発表 (5件) 備考 (1件)
Annual Review of English Language Education in Japan
巻: 25 ページ: 159-174
巻: 25 ページ: 1-16
JACET (Japan Association of College English Teachers) Journal
巻: 57 ページ: 1-19
JLTA (Japan Language Testing Association) Journal
巻: 16 ページ: 185-204
http://www.u.tsukuba.ac.jp/~ushiro.yuji.gn/