3年目は、環拡張ポルフィリンそのものの骨格の巨大化に取り組んだ。 10個のピロールユニットからなる巨大環拡張ポルフィリンの1つであるデカフィリンに対してパラジウム錯化を行うことで46πヒュッケル芳香族性を示すデカフィリンパラジウム錯体を合成し、さらにこれを酸化することで44πヒュッケル反芳香族性、および44πメビウス芳香族性を示す分子の合成に成功してした。また、これらの化合物の分子ねじれと共役系および芳香族性の関係を明らかにした。 また、デカフィリンに対して亜鉛錯化を行うことで、[46]デカフィリン-亜鉛二核錯体を合成した。この錯体に対して銅イオンを作用させることで、亜鉛-銅-亜鉛三核錯体の合成に成功した。この亜鉛−銅−亜鉛三核錯体は、銅イオンが一価二配位構造を有しており、デカフィリン部分がπラジカルとしての性質を有していることを見出した。この性質をX線結晶構造解析およびSQUIDから求め、そのπ共役系と銅イオンとのスピン同士の相互作用の詳細について考察した。 さらに巨大な環拡張ポルフィリンであるテトラデカフィリンの物性解明に取り組んだ。このテトラデカフィリンは、巨大な[62]共役系を有している。さらにテトラデカフィリンにテトラブチルアンモニウムフルオリドを作用させることで、前例のない巨大な62π芳香族性を発現させることに成功している。さらに、このテトラデカフィリンに対して亜鉛イオンを作用させことにより、亜鉛単核錯体および二核錯体を合成した。これらは亜鉛単核錯体でNNNNN2価5配位亜鉛および62π芳香族性となる興味深い性質を見出した。
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