研究課題/領域番号 |
12J01362
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
八田 雄太郎 大阪大学, 経済学研究科, 特別研究員(DC2)
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キーワード | 所得不平等 / 経済発展 / 社会的地位選好 / 所得再分配 |
研究概要 |
今年度は、不平等と経済発展の因果関係を理論的に分析するという観点の下、以下の研究を行った。 1.経済主体が社会的地位選好を持つ、すなわち他の経済主体の活動に直接依存した形で意思決定を行うような状況下での所得不平等と経済発展の相互依存関係やその動学的挙動を経済理論モデルを用いて分析した。特に、資産保有量が平均より高いか低いかによって地位選好の強さが異なるような異質性が存在するモデルを用いた。そして、以下のことを示した。 (1)初期の不平等が永続的に残るかどうかは、上記の異質性の定式化次第であることを示した。 (2)異質性を考慮に入れることで、経済の生産量と不平等の間に複雑な相関関係が現れることを示した。実証研究では、両者の関係に決着はついておらず、本研究の結果はその論争に一つの解答を与えるものである。 2.不平等と経済発展の相互依存関係を分析するには政策の変化をも考慮に入れる必要がある。その際、資本蓄積がいかに政策の影響を受けるかを考えなければならない。そこで、資本税率が投票によって決まるような政治経済学の枠組みを用いて、経済発展がどのような経路を辿るか、また、どのような時に非効率な租税政策が行われるかを考察した。分析の結果、経済が貧しいときには非効率な政策しか行われないことがわかった。ここで、「非効率」とは同じ税収をより低い税率で確保できるにもかかわらず、高い税率を課し経済活動に対して歪みの多い政策を行っていることを意味する。また、中程度の発展段階にいる経済は、経済主体の期待に応じて、生じ得る租税政策が複数存在する可能性を示した。さらに、経済発展の進んだ経済は効率的な政策のみを行える。したがって、貧しい国は高い資本税率を課し、資本蓄積が大きく阻害され、貧しさが持続する、という「貧困の罠」に囚われている可能性があることが示唆される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的は、不平等と経済成長の関係について理解を深め、不平等に関連する政策分析を行い、政策提言を行うことにある。研究実績の概要で述べたように、社会的地位選好を含めた不平等と経済発展の相互依存関係や内生的な政策決定を含めた経済・政策決定のメカニズムを分析したという意味で、当初の計画は1頂調に進展していると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究では、現在までの研究結果を踏まえた上で、社会的流動性を理論モデルに取り込み、不平等と経済成長間の因果関係についてより精緻に分析する予定である。社会的流動性とは、所得分布の中である階層から他の階層に移動することを指す。このことにより、「一時点の不平等」と「異時点間の不平等」を同時に取り入れた分析が可能となる。さらに、現実の経済を国ごとに見てみると不平等や社会的流動性には著しいばらつきが見られる。このことを受けて、各経済に応じた有効な経済政策の提言を目標としている。
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