平成26年度は、1.1980年代後半以降の代理懐胎・代理母出産をめぐる議論を分析し、さらに、2.1990年代後半以降に起こった生殖技術における新たな動きとそれをめぐる議論について、日本およびオーストラリアにおいて調査を行い、その結果を分析した。そして、3.これまでの研究成果を総合し、生殖補助医療をめぐる法制度の体系化・理論化を試みた。4.研究成果については積極的に発表した。 現地調査はヴィクトリア州メルボルンおよびニュー・サウス・ウェールズ州シドニーで行い、政府文書や議会資料、新聞や雑誌の記事、博士論文などの資料収集を行った。同性カップルによる生殖補助医療や養子縁組へのアクセス権などを主張してきたロビー団体のメンバーなどへのインタビューも行った。 これらの研究活動を通し、まず、オーストラリアにおける代理母出産や体外受精に関する議論を包括的に分析することで、議論の主要なアクターを特定し、その主張を整理して、この問題をめぐる言説状況を明らかにすることができた。また、1990年代以降に起こった同性カップルなどによる生殖補助医療の利用とその規制について調査することで、その前提とされてきた社会規範を批判的に分析し、異性愛主義に基づく家族と生殖のあり方の問い直しについても考察することができた。さらに、これまでの研究成果をもとに、オーストラリア各州と他国の生殖補助医療に関する法制度化の相違点を分析し、そこから得られる日本への示唆についても検討した。 成果発表については、まずThe Australian Sociological Associationにて、ヴィクトリア州を中心にオーストラリアにおける生殖補助医療の法規制について報告した。また、学会誌『パブリック・ヒストリー』にて、20世紀半ばのオーストラリアにおける不妊治療クリニックの展開とその背景、「不妊」の医療化に関する論文を発表した。
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