研究概要 |
1.イジェクタ層の発見:天体衝突起源粒子を含む粘土岩がみつかった美濃帯に分布する岐阜県南東部の3地域(坂祝,鵜沼,飛水峡)および大分県津久見市の秩父帯に分布する上部三畳系層状チャートにおいて,阻石衝突によって形成されたと考えられる粘土岩を発見した.すべての粘土岩中には,衝突起源粒子であると考えられているスフェルールを含む. 2.白金族元素の定量分析:1で発見した4セクションのイジェクタ層において,首都大学東京のICP・MSを用いて白金族元素の定量分析を行った.その結果,すべてのセクションから白金族元素の異常濃集が発見された.複数のセクションから得られた白金族元素異常のパターンは,今後衝突天体の起源を決定する上で非常に重要なデータとなる.3.Os同位体比の測定:イジェクタ層がみつかっている坂祝地域のチャートおよび粘土岩(イジェクタ層)において,Os同位体比を測定した.測定は,海洋研究開発機構にて,マルチコレクターICP-MSを用いて行った.その結果,下位層準のチャートから粘土岩にかけて,急激な負の変動として記録されていることが明らかとなった.堆積物中に記録されたOs同位体比の急激な負の変動は,発見された粘土岩が三畳紀後期の阻石衝突によって形成された堆積物(イジェクタ層)であることを示した. 4.研究成果発表:国際堆積学会および日本地質学会において,3で得られた成果を発表した. 5.論文投稿:坂祝地域のイジェクタ層の報告および生物絶滅の議論について,Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of Americaに論文を発表した.また,3で得られたOs同位体比の急激な負の変動により明らかにされた三畳紀の阻石衝突の証拠について,Nature communicationに投稿し,現在リバイス中である.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究代表者は,野外調査における露頭の詳細な観察および化学分析を計画的に進め,その結果,発見された粘土岩が三畳紀後期の隕石衝突によって形成されたことを証明するデータを得ることができた.得られたデータをもとにオスミウム同位体比に関する論文を投稿し(Nature Communications),現在リバイス中であることから,研究は順調に進展しているといえる.
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今後の研究の推進方策 |
研究課題である三畳紀後期の環境変動を解明するため,以下2つの内容を明らかにする. (1)隕石のタイプを明らかにする.国内の複数のセクションから発見したイジェクタ層を用いて,Cr同位体比測定を行う. (2)衝突天体のサイズを求める.(1)で明らかとなった隕石中に含まれているOs濃度およびOs同位体比の変動幅を用いて,サイズ計算を行う(PaqueyetaL, 2008, Science計算式を使用). 隕石のタイプおよびサイズを明らかにすることで,地球の環境変動に影響を与えると考えられる元素(硫黄や炭素など)の地球への流入量を見積もることが可能になると考えられる.
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