研究概要 |
1. 論文投稿・プレスリリース : これまで行ってきたオスミウム同位体による隕石衝突の証明を, Nature Communications誌に発表した. 海水中のオスミウム同位体比の急激な負の変動が, 低いオスミウム同位体比をもつ隕石衝突によるものであることを証明した. さらに, オスミウム同位体の変動の幅から, どの程度の大きさの隕石が衝突したかを推定し, 巨大隕石衝突の可能性を示した. プレスリリースや一般向け科学雑誌である「科学」(岩波書店)への執筆により, より社会的に研究成果を発信することができた. 2. クロム同位体分析 : 衝突隕石を特定するため, クロム(Cr)同位体分析を行った. <54>^Crの値は, 炭素質コンドライトの場合正の異常をもち, 地球物質(<54>^Cr<0)およびその他の陽石(^<54>Cr<0)と区別することができる. Cr同位体分析は, 分析前の化学処理を岡山大学山下研究室, 測定を国立科学博物館(TRITON Plus)にて行った. 分析の結果, チャートが0の値をとるのに対して, 隕石衝突層準では, ^<54>Crの値は正の異常を示し, 炭素質コンドライトの可能性が示唆された. 今後は, 衝突隕石から放出された炭素や硫黄などの地球環境に影響を及ぼすと考えられる元素の地球への流入量を推定することを目標としている. 3. 主要元素および微量元素分析 : これまでの研究では, チャート中の微化石研究から, 隕石衝突直後の生物絶滅はなかったことが示された(Onoue, Sato et al., 2012). しかし, その後の研究により, 隕石衝突層準からおよそ100万年かけて放散虫の種の移り変わりがあったことがわかってきた. そこで, 三畳紀後期の隕石衝突層準における生物の変化が何に由来するかを突き止めるために, 隕石衝突層準前後のチャート65サンプルを用いて, 主要元素分析および微量元素分析を行った. 分析の前処理および測定は, 東京大学加藤研究室で行った. 今後測定結果を生物の移り変わりと対応させながら検討していく予定である. 4. 国内外における研究成果発表 : ゴールドシュミット(フィレンツェ)および日本地球惑星科学連合大会(千葉), 日本地質学会(仙台)において, 1で発表した隕石衝突の証明と隕石サイズの推定についての内容を発表した.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究代表者は, オスミウム同位体分析により得られた隕石衝突の証拠をNature Communications誌に発表し, 隕石衝突説を確固たるものにした. それにより, 現在は隕石衝突と地球環境変動との関連性を解明するという次のステップに着手している. よって, 現在研究は順調に進展しているといえる.
|
今後の研究の推進方策 |
研究課題となっている三畳紀後期の隕石衝突と環境変動との関連性を明らかにするため, 以下の2つの内容を明らかにする. 1. 衝突隕石のタイプを明らかにする : 隕石は種類によって含まれる元素が大きく異なるため, 地球にもたらされた隕石由来の様々な元素の流入量を見積もることで, 地球環境への影響の有無を推定することができる. 新たに得られたイジェクタ層サンプルを用いて, クロム同位体分析を行い, 衝突隕石を決定する. 2. 隕石衝突による生物への影響を明らかにする : チャート層に含まれる放散虫を1層準ごとに高分解能で抽出し, 隕石衝突後の種の移り変わりを100万年分調べる. これにより, 隕石衝突によってどのくらいの期間で生物に影響を及ぼしたかについて検証する.
|