研究課題/領域番号 |
12J01408
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
冨永 悠介 大阪大学, 文学研究科, 特別研究員(DC2)
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キーワード | 琉僑 / 韓僑 / 「水産」地域 / 「基隆市営漁民住宅」 / 台湾省政府 / 警務処 / 「台湾省職業訓導総隊」 / 強制送還 |
研究概要 |
本研究は、台湾本島北部の港湾都市・基隆に位置する「水産」と呼ばれる地域を主な調査地とし、そこに暮らす沖縄・朝鮮半島出身者(以下、前者を琉僑、後者を韓僑)の歴史的経験に刻み込まれた時代的特徴に着目することで、東アジアの歴史や時代を照らし出すことを目的としている。平成24年度の研究成果として、1、この「水産」地域の形成と発展の過程を歴史的に辿ったこと、2、台湾省政府警務処の『琉僑管理案』『韓僑処置事項案』等の梢案調査が挙げられる。 「水産」地域は、1934年5月に竣工された八尺門漁港を中心に発展してきた地域である。八尺門漁港の施工は、1910年代後半に浮上した基隆港内の三沙湾漁港移転問題に端を発している。そこで、本研究ではまず、日本植民地下の台湾で発行されていた『台湾日日新報』や『台湾水産雑誌』に依拠しながら、移転理由の変遷を跡付け、三沙湾漁港の移転から八尺門漁港の竣工までの経緯を辿った。次に、「水産」地域の特徴を照らし出すために「基隆市営漁民住宅」に着目した。この「漁民住宅」は、窮状に喘ぐ漁民たちを保護する目的があった一方で、彼らを基隆市街地から一掃するために設置された。ここから、漁民の救済地と強制移転地という「水産」の両義的側面を照らし出した。最後に、戦後、この「水産」地域に設立された「台湾省琉球人民協会」「台湾韓僑協会」に言及し、本研究が、「水産」に暮らす琉・韓僑の歴史的経験を考察するための基礎研究だと位置付けた。 次に、1947年5月に設立された台湾省政府の管轄下にあった警務処の琉・韓僑関連格案調査を行った。とりわけ、『琉僑管理案』『韓僑処置事項案』『韓僑管理案』『韓僑処理事項案』に重点を置いた。具体的な作業として、計37冊存在する以上の梢案すべての目録作成を行い、梢案の性格や収録された案件の分類を行った。そして、不法滞在や密航の罪で逮捕された琉・韓僑たちが「台湾省職業訓導総隊」と呼ばれる組織に収容され、強制送還されていたことが浮かび上がった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の核でもある「水産」地域の発展と開発を一次史料に依拠しながら歴史的に辿り、台湾史研究会『現代台湾研究』第43号に投稿・掲載されたことは、大きな研究の成果であった。また、台湾省政府警務処梢案を調査できたことも、本研究を大きく進展させることができた。そして、この調査に基づきながら、具体的な研究成果としてまとめ、発表していくことが、今後の課題として残っている。
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今後の研究の推進方策 |
本研究は、「水産」地域に暮らす琉・韓僑の東アジア経験を、公文書や新聞記事、家族写真とした記録史料と、当事者の証言を重ね合わせることで、個人と国家や時代の相互交渉の歴史として描き出すことを目指している。その際、台湾省政府警務処梢案に刻み込まれた琉・韓僑の姿に着目しつつ、当事者への聞き取りを重ね合わせていくことが本研究に求められるだろう。
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