研究課題/領域番号 |
12J01416
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
清水 かほり 大阪大学, 薬学研究科, 特別研究員(DC2)
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キーワード | アデノウイルスベクター / マイクロRNA / 遺伝子治療 / 肝障害 |
研究概要 |
アデノウイルス(Ad)ベクターは、遺伝子導入用ベクターとして多くの特長を有することから、遺伝子治療臨床研究において最も汎用されているベクターである。Adベクターは、自己増殖に必須のEl遺伝子を欠損させることで、理論上、Ad遺伝子が発現しないよう設計されている。しかしながら遺伝子導入後、わずかにE1遺伝子非依存的にAd遺伝子が発現してくることで、Adタンパク質に対する細胞性免疫が誘導されるとともに、Adタンパク質そのものによっても組織障害が引き起こされることが問題となっている。また、それによって、導入遺伝子の発現が減弱してしまうことが報告されている。そこで本研究ではAdタンパク質に対する細胞性免疫を抑制可能なAdベクターを開発することを目的に、Adベクター作用後に他のAd遺伝子と比較して高発現することが明らかとなったE2A、E4、pIX遺伝子(Shimizuet al., Mol. Pharmaceutics, 2011)の3'非翻訳領域に肝臓特異的miR-122a、または脾臓特異的miR-142-3pの完全相補配列4コピーを挿入したAdベクターを開発し、その機能を評価した。これら開発したAdベクターは、293細胞を用いた通常の調製法で、従来型Adベクターと同程度のタイター量が容易に回収可能であった。本Adベクターをマウスに全身投与後の肝臓・脾臓におけるE2A、E4、pIX遺伝子発現量は、各臓器のmiRNA発現パターンに従い、従来のAdベクターと比較して約1/2~1/100以下に抑制された。中でも、E4遺伝子の3'非翻訳領域にmiR-122aの標的配列を挿入したAdベクター(Ad-E4-122aT)は、肝臓においてE4遺伝子のみならず、他のAd遺伝子の発現も抑制された。Ad-E4-122aT投与群は、従来型Adベクターと比較して2~4倍低いALT・AST値を示し、作製したAdベクター中で最も肝障害が低かった。また、Ad-E4-122aT投与群では従来型Adベクター投与群と比較し、同程度またはそれ以上のmSEAP発現量を示した。さらに、肝臓でのE4遺伝子の発現を抑制することでAdベクターによる肝障害を軽減可能であることが示された。以上の本研究より、Ad-E4-122aTは高い安全性と遺伝子導入活性を兼ね備えたベクターであることが示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
Adベクター作用後に非特異的な発現を示すE2A、E4、pIX遺伝子の3'非翻訳領域に、肝臓特異的miR-122a、または脾臓特異的miR-142-3pの完全相補配列4コピーを挿入したAdベクターを開発することに成功し、それらベクターの機能を評価することができた。中でもE4遺伝子の3'非翻訳領域にmiR-122aの標的配列を挿入したAdベクターは、従来型Adベクターよりも肝障害性が低く、高い遺伝子発現を示すベクターであることを明らかにした。
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今後の研究の推進方策 |
Adベクターはマウスに投与後早期および後期に肝障害マーカーであるALT・AST値が上昇することが知られている。しかしながらE4遺伝子の3'非翻訳領域にmiR-122aの標的配列を挿入したAdベクター(Ad-E4-122aT)は、マウスに投与後早期において、ALT・AST値が全く上昇しなかったことから、Ad-E4-122aTを用いて、Adベクターが投与後早期に肝障害を引き起こすメカニズムについて解析する。また、Adベクターの複数回投与時における、抗Ad中和抗体以外に遺伝子発現効率に影響を与える要因として、Adベクターの初回投与時に誘導される自然免疫により組織障害が引き起こされることで、二回目投与後に遺伝子発現が減弱されるとの仮説を考えている。そこで、Ad-E4-122aTは複数回投与可能であるか、そして繰り返し投与することにより遺伝子発現が上昇するか調べる。
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