本研究において、昨年度までに開発したアデノウイルス(Ad)ベクターの中で、従来型Adベクターよりも肝障害性が低いことが示された、E4遺伝子の3'非翻訳領域にmiR-122aの標的配列を挿入したAdベクター(Ad-E4-122aT)の機能評価と肝障害性が低い原因にっいて検討した。 Ad-E4-122aTが従来型Adベクターよりも肝障害性が低い原因は、Ad-E4-122aT投与群においてはAdタンパク質に対する細胞障害性T細胞(CTL)の誘導が低いためではないかと考え、Adベクター投与後の脾臓中のヘキソン(Adベクターの主要エピトープ)特異的なCTLの誘導を検討したところ、Ad-E4-122aTをはじめ全てのAdベクター投与群において脾臓中のヘキソン特異的なCTLは誘導されたものの、その値は同程度であった。また、Adベクター投与後の肝臓におけるTリンパ球の誘導についても検討したところ、従来型Adベクター、Ad-E4-122aT投与群ともにTリンパ球の誘導は認められたが、両群の間に有意差な差はなかった。そこで、Ad-E4-122aT投与群においては肝臓でのAd遺伝子の発現が抑制されていたことから、肝細胞におけるAd抗原提示の程度が低くなっているのではないかと考えた。そこで、マウス初代肝細胞に従来型AdベクターまたはAd-E4-122aTを作用させた後、従来型Adベクターを投与したマウスから単離した脾臓中のCTLを用いてCTLアッセイを行った。その結果、Ad-E4-122aT作用群においては、従来型Adベクター作用群よりも細胞傷害性が抑制されていることが示された。以上の結果より、Ad-E4-122aT投与群では、肝細胞でのAd抗原提示の程度が低いことが示唆された。また、獲得免疫非依存的な経路による肝障害についても検討するため、免疫不全マウス(Rag2/IL2rγc欠損マウス)にAdベクターを投与し、血清中ALT・AST値を測定したところ、従来型Adベクターにおいては有意に上昇したことに対し、Ad-E4-122aTではPBS投与群と同様、全く上昇がみられなかった。これらの結果より、Ad-E4-122aTでは獲得免疫依存的及び非依存的な経路による肝障害が抑制されていることが示された。さらに、Ad-E4-122aTは、従来型Adベクターよりも搭載遺伝子を高効率に長期間発現可能であることが示された(論文投稿中)。
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