研究課題/領域番号 |
12J01422
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
早川 郁美 京都大学, 理学研究科, 特別研究員(DC1)
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キーワード | 細胞性粘菌 / 種間認識 / 細胞接着 |
研究概要 |
本研究は細胞性粘菌の種間相互作用をテーマとして、特に種間認識・選別機構を分子レベルで解明することを目的としている。申請書のこれまでの研究では、細胞性粘菌Dictyostelium discoideum (Dd)とD. purpureum (Dp)の種間認識には、接着因子であるTigerC1 (TgrC1)が関与することが強く示唆されている。平成25年度は「種間で共有するシグナル因子の特定」、「野外サンプリングの実施」も予定していたが、投稿論文の執筆を優先し、引き続き「種間認識・選別機構の解明」を重点的に進めた。 DdのTgrC1欠損株(tgrC1^-株)へDpのTgrC1を導入し(tgr C1^-/Dp-tgrC1株とする)実験を行った。親株のtgrC1^-株は多細胞体形成の早い段階で発生が停止する変異体である。TigerC1はTigerB1 (TgrB1)とヘテロフィリックに結合して機能するが、「tgrC1^-/Dp-tgrC1株」で発現しているTgrB1・TgrC1は本来の結合ペアではないため表現型は回復せず、正常な多細胞体形成をおこなえなかった。しかしDdの野生型、Dpの野生型の両方に混合できるという興味深い表現型を示した。さらに2種混合の多細胞体における各種細胞の分布からTgrB1・TgrC1は単なる接着の機能だけでなく、何らかのシグナル伝達を介して種間認識・選別に関わっている可能性が示唆された。 細胞性粘菌では多くの知見はモデル生物であるDdに偏っている。TgrB1・TgrC1についても、これまでにDdの種内においては株間認識に関与することが知られているが、詳しい作用機序や種間での機能は明らかになっていない。本研究で得られている結果は、TgrB1・C1の具体的な機能解明の一端となり、細胞性粘菌の種分化を分子遺伝学的な背景から議論する上で重要な知見となることが期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成25年度は、本研究で主軸となる「種間認識・選別機構の解明」について重要な進展があった。また、細胞性粘菌は株や種ごとに様々な性質が異なっていることが多く、同一条件下で再現性の高いデータを得ることが困難であったが、平成25年度は培養条件や実験設計を見直し、安定した定量データの取得に成功した。現在は追加データを収集するとともに論文執筆を進めている。さらに、改良された実験条件は別テーマを進行する上でも応用可能であり、研究はおおむね順調に進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
平成26年度は、「tgrC1^-/Dp-tgrC1株」を用いた実験についてさらに試行回数を増やし、各種細胞の動態や分布に関した詳細な解析をおこなって、TgrB1・TgrC1の機能考察をより確実なものにする。さらに平成25年度に着手できなかった「種間で共有するシグナル因子の特定」、「野外サンプリングの実施」を再開し、それぞれのテーマで中心となるデータを取得する。「種間で共有するシグナル因子の特定」に関しては、CMF (Conditioned Medium Factor)を分泌できないDd株に対して、異種の細胞性粘菌から回収したCMFが機能するかを確認する。「野外サンプリングの実施」に関しては、少なくとも1カ所の特定野外領域でサンプリングを行い、微細な土壌中に共存する細胞性粘菌種の組み合わせを明らかにする。
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