多重ゼータ値の研究に於いて、モジュラー形式との関係を明確にすることは、多重ゼータ値の未解決問題の一つであるBroadhurst-Kreimer予想の解決において大変重要である。今年度は主に、近年Francis Brown氏により提唱されたBroadhurst-Kreimer予想において重要な部分である純奇多重ゼータ値予想に取り組み、モジュラー形式に対応する多重ゼータ値の線形関係式があることを間接的に示唆する Baumard-Schnepsの結果の拡張に対応する新しい結果を得た。この仕事により、純奇多重ゼータ値予想の未解決であった深さ4の場合を満足いく形で解決する事が出来た(論文にまとめて投稿中)。 多重アイゼンシュタイン級数の研究にも取り組んだ。これに対し、モチビック多重ゼータ値の研究で重要な伊原作用から得られるある整数と、多重アイゼンシュタイン級数のフーリエ展開の係数との対応を明示的に与えた。これは2重3重の場合に金子昌信氏により示唆されていたことである。この結果は多重アイゼンシュタイン級数が伊原作用と深く関わっていることを示唆しており、興味深い対応である。 また、Hamburg大学のHenrik Bachmann氏を九州大学に10日ほど招聘し、多重アイゼンシュタイン級数の絶対収束域外での定義等について共同で研究を行った。 レベル付きの多重ゼータ値、及び多重L値の研究にも着手した。Zhao氏により、Deligne-Goncharovが与えた多重L値の張るベクトル空間の次元の上限公式は最良ではない場合があることが知られている。主に、既知の関係式(2重シャッフル関係式や分配関係式等)を用いた多重L値の張るベクトル空間の次元評価を、数学ソフトウェアMathematicaを用いて行い、一定の知見を得た
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