研究概要 |
本研究の目的は, 深紫外領域における顕微分光法の確立により, 高Al組成AlGaN/AlN量子井戸内の不均一性に起因したキャリアダイナミクスを解明することである. ・弱励起時間分解発光測定 Ti : sapphireレーザの第四高調波(~210nm)を用い, 弱励起条件下における時間分解PL測定を行った. 減衰曲線から, 二つの減衰寿命が存在することが分かった. 励起強度を変化させた際に二成分の比が変化しなかったこと, また今回の励起強度範囲では低温においても非輻射再結合の存在が示唆されていることを考えると, 速い成分は非輻射再結合, 遅い成分は励起子の輻射再結合が支配的であると考えられる. ・カソードルミネッセンス測定 スイスのEPFL校内にあるAttolight AG社にて極低温におけるcL測定を行い, 量子井戸面内におけるサブミクロンオーダの不均一性を直接観測することに成功した. CL強度と発光波長の相関関係は, 薄い井戸では正の相関, 厚い井戸では負の相関を持っことが確認された. これは, 各量子井戸における不均一性の起源が異なることを意味する. 現在のところ, 薄い井戸では井戸幅揺らぎ, 厚い井戸では非輻射再結合中心を伴ったGaリッチ領域の存在(Al組成揺らぎに相当)が不均一性の起源であると考えている. ・顕微PL測定 前年度, 既に顕微PL測定には成功している. しかし, その際の励起光源は繰り返し周波数が1 kHzと低く, 非常に強励起条件での測定であり, 試料へのダメージを抑えるために励起強度を抑えなければならず, 充分な検出強度が得られなかった. そこで, Ti : sapphireレーザ(80MHz)の第四高調波を用い, 弱励起条件における顕微PL測定を行い, 数ミクロンオーダの不均一性をS/N良く観測した. CLと顕微PL測定により, 量子井戸内において, サブミクロンと数ミクロンオーダの不均一性が存在することを確認できた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
光学特性を議論するうえで欠かせない弱励起条件における測定に成功し, 弱・強励起全般の測定が可能となった. これは当初の予定を超えた成果である. また, CL,顕微PL測定の組み合わせにより, 主な目的であるAlGaN量子井戸内における不均一性の直接観測および不均一性の起源解明が達成できた. 以上の結果を論文にまとめつつあるが, 未だ完成していないため, ②とした.
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今後の研究の推進方策 |
顕微PL測定系を使用すれば, 二光子励起測定, 第二高調波測定などの応用測定も可能である. 現在, そのための光学系の設計を終え, 光学部品を揃えている段階である. これら二つの測定は同時に行えるため, それぞれのマッピング結果を即座に比較できる. 二測定間の相関関係から, 量子井戸内の欠陥の分布情報を得ることができると考えている. また, ヘテロエヒタキシャルとホモエピタキジャル成長によるAlGaN量子井戸間の比較も行い, 不均一性の多寡や, その起源の違いの有無などを検討し, 不均一性の議論を一層深める予定である. CL測定に関しては, 新たに時間分解CL測定を計画している. 局所領域における再結合寿命の情報は, 不均一性の議論を深めるうえで最も重要な情報の一つであり, キャリアダイナミクス解明の大きな前進が期待できる.
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