研究概要 |
近赤外領域における数種の吸収バンドを用いた、尿の近赤外スペクトル測定による雌霊長類の新規発情モニタリング法の開発を目的として,本年度は主にオランウータンを供試して,発情ホルモン濃度変化と尿近赤外スペクトル変化について調べた。 1.オランウータン、チンパンジーおよびゴリラの各1頭以上の雌を供試し,それぞれ3か月間尿を採取して生理出血日を記録した。また,近赤外スペクトルの解析に参照データとして用いる尿中性ステロイドホルモン代謝産物(エストロングルクロニドおよびプレグナンジオールグルクロニド)濃度を酵素免疫測定(EIA)法により測定した。 2.雌オランウータンの尿を用いて,雌ジャイアントパンダで報告した研究内容を基に,非発情-発情時の差スペクトルを求め,第1倍音において変化する吸収バンドを選定した。その結果,ジャイアントパンダと類似の吸収波長が選定されたが,オランウータンの場合はエストロングルクロニド濃度変化に応じた顕著なスペクトル変化は認められなかった。この違いを検証するため,非発情および発情時の差スペクトルの二次微分処理を行ったスペクトルの吸収強度を求めたところ,オランウータンはジャイアントパンダの値よりも有意に低い値を示した。この結果から,非発情および発情時の近赤外スペクトルの差は,オランウータンよりもジャイアントパンダの方が大きいことが示唆された。 3.野生下でも尿の保存に利用しやすいフィルターペーパー上で乾燥させた尿サンプルから,拡散反射法により近赤外スペクトルを得てエストロングルクロニドおよびクレアチニン濃度測定のためのモデル解析を行った。PLS回帰分析を行った結果,両成分ともに2113-2355nmの波長領域で良好な結果が得られた。また,標準試薬を用いた場合においても,同波長領域で高精度のPLS回帰結果が得られた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
周年性多発情動物であるオランウータンの尿近赤外スペクトルは,これまで研究対象としてきた単発情動物であるジャイアントパンダとは異なることを見出した。また,今年度から尿そのものではなく,飼育下および野生下でも使用および保存が容易なフィルターペーパーに尿を染み込ませ,乾燥させたサンプルを用いて尿近赤外スペクトルを測定することを考案した。この方法を用いれば,これまで困難であった野生下での採尿が容易となり,野生下にある動物の尿近赤外スペクトル測定が可能となる。この方法が確立されれば,飼育下および野生下での希少種の繁殖性能の把握および繁殖効率の向上に貢献できることが期待できる。
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今後の研究の推進方策 |
本年度の研究成果から,尿そのものではなく,フィルターペーパー上で乾燥させた尿を用いた方が発情モニタリングモデルの精度は向上することが判明した。今後は拡散反射法による尿フィルターペーパーの近赤外スペクトル測定による発情モニタリング法の開発に着手する。また,オランウータンだけでなくチンパンジーおよびゴリラにもモニタリングモデルを応用する。また,本年度の研究期間中に上記3種の妊娠期の尿も採取できたため,発情だけでなく妊娠時の近赤外スペクトルも測定し,妊娠モニタリングモデルの開発も行う。
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