研究課題
近赤外領域における数種の吸收バンド用いた、尿の近赤外スペクトル測による雌霊長類の新規発情モニタリング法の開発を目的として、本年度は主に、野生下でも尿の保存に利用しやすいフィルターペーパー(ガラス繊維ろ紙)上で乾燥させた尿サンプルから、拡散反射法により近赤外スペクトルを得て、発情ホルモン濃度定量のためのモデル解析を行った。1. 昨年度の実験から、農薬などの微量成分の定量分析で応用されているフィルターペーパーを使用することで、雌オランウータンの尿中ホルモン濃度を近赤外分光法で定量できる可能性が見出された。本年度では、粒子保持率、通気度、厚さおよび秤量の異なる複数種のフィルターペーパーを使用し、それぞれの尿近赤外スペクトル測定によるホルモン濃度の定量について精度を比較した。その結果、エストロングルクロニド(EIG)およびクレアチニンにおいて、通気度が高く、粒子保持能が比較的低いフィルターペーパーを用いた場合に良好な結果が得られることが判明した。2.3頭のオランウータンの雌を供試し、妊娠中の尿中EIG、エストリオール(E3)、プレグナンジオールグルクロニド(PdG)および胎盤性ロイシンアミノペプチダーゼ(P-LAP)濃度を酵素免疫測定法により測定し、正常出産および死産時の濃度動態を比較した。その結果、これらのホルモンおよびプロテアーゼ濃度を測定することにより、本種の死産時における胎児・胎盤間の機能不全を診断できる可能性が示唆された。今後、これらの検査項目についても近赤外分光法で迅速に定量できれば、本種の繁殖効率の向上に貢献できることが期待される。
2: おおむね順調に進展している
昨年度、飼育下および野生下でも使用および保存が容易なフィルターペーパーに尿を染み込ませ、乾燥させたサンプルを用いて尿近赤外スベクトルを測定することを考案した。本年度では、さらに様々なフィルターペーパーを使用し、発情ホルモンおよびクレアチニンにおいてより精度の高い回帰モデルの構築に成功した。この方法を用いれば、これまで困難であった野生下での採尿が容易となり、尿近赤外スペクトル測定によって野生下にある動物の発情状態の定量が可能となる。実際、来年度からは野生下にある個体からも尿を採取してモデルの精度を確認する予定である。本研究成果は、飼育下および野生下での希少種の繁殖性能の把握および繁殖効率の向上に貢献できることが期待される。
本年度の研究成果から、近赤外分光を用いてもある程度発情ホルモンおよびクレアチニン濃度を定量できることが判明した。そのため、今後は小型の分光器を用いて、野生下の個体から採取した尿にも分析を応用する。また、オランウータンだけでなく、チンパンジーおよびゴリラにも構築したモデルを応用する。さらに、本年度の研究成果から、オランウータンの正常出産時の3種のホルモンおよび1種のプロテアーゼ濃度の動態が明らかとなった。今後は、これらの検査項目における近赤外分光法を用いた迅速測定のモデル構築も目指す。
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in vitro Leiluiar ana uevelopmentai biology -Animal-
巻: (In print)
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