研究課題/領域番号 |
12J01488
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
高江 恭平 京都大学, 理学研究科, 特別研究員(DC2)
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キーワード | 構造相転移 / 配向ガラス / 形状記憶効果 |
研究概要 |
異方性を有する粒子からなる系における相転移とガラス的挙動は、広く観測される現象であり、高分子における結晶化やガラス転移に留まらず、形状に弱い異方性のある分子によるプラスチック結晶の形成、細長い分子による液晶相の発現、また形状記憶合金におけるマルテンサイト相変態など、枚挙にいとまがない。また不純物を混入した系においては、不純物が大域的な秩序を破壊し、ガラス状態が実現されることが良く知られている。しかるにこのような系の理論的研究は各論によっている場合がほとんどであり、内部自由度を有する系の統一的な取り扱いによる理論的研究はされていなかった。そこで我々は、近似的に楕円体とみなせるような粒子と球形粒子の混合系を数値的に研究するために、粒子の配向を考慮した分子間相互作用のモデルを提案した。分子動力学シミュレーションを行った。その結果、単成分の楕円体粒子系においては、配向秩序の相転移とそれに伴う弾性率のソフト化、また特異な力学応答としての形状記憶効果を見出した。これは冶金においては有名な力学応答であるが、分子性あるいは高分子結晶においても同種の効果が観測されうることを示した最初の研究になっている。また不純物として球形の粒子を混入した系において、不純物の濃度を増やしていくと、配向秩序が消失し、配向ガラスを形成することを見出した。また、そのようなガラス化した結晶においても、配向秩序結晶と同様に形状記憶効果を示すことを発見した。この効果は高分子や分子性結晶においては観測されていないが、形状記憶合金に欠陥を導入したストレインガラスにおいては観測されており、ガラス性結晶一般の力学応答でも同様の効果がみられることを示唆している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
異方的な相互作用をする粒子系の分子動力学計算という、これまでに確立されていなかったモデル化を行い、その数値シミュレーションにより、実験において確認されている性質のみならず、実験に対して示唆を与える結果も見出した。また現在静電相互作用の寄与する現象のモデル化を進めており、高分子電解質溶液の電場応答や流動についての分子動力学計算という、これまでに類のない計算を行うことが可能になりつつあるという点で、進展が著しいと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
今後はこれまでに培ってきた異方的粒子系の動力学を、静電相互作用のある系に拡張し、外場下における非平衡ダイナミクスを調べる。具体的には分極粒子系の強誘電秩序が、不純物混入により、どのように影響されるかを調べる。また、高分子電解質の外場応答、流動場の寄与を、分子シミュレーションにより調べ、高分子の形態変化や、電荷の不均一な分布が、非平衡条件下ではどのように振舞うのかを明らかにしていく。
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